死神の岬へ [作者:直十]
■6
その日は、ひどい雨だった。
痛いほどの土砂降りの中、慶吾と玲奈はガソリンの切れた車を捨て、手を取り合い歩いていた。
雨のせいで数メートル先も見えないほどだった。右手では荒れた海が海岸で弾け白波を立てている。
雨に当たり続けた体は冷え、つないだ手のわずかな温もりが頼りというほどの状態だった。二人とも限界が近かった。
そんな中、慶吾はそれに気づいた。真っ暗な雨の中、真っ黒のマントを着て真っ黒のフードをかぶっている、人間。
視界がほとんどないせいで、すぐ近くに来るまで気がつかなかった。
その人間もその時になって慶吾に気づいたのか、フードの奥から慶吾を見た。
その蒼い目を見た瞬間、慶吾は全てを映し出す湖面を連想した。もしくは、全てを包み込むような広大な空。
そしてその黒ずくめの姿に、慶吾は――
「あなたは、死神ですか?」
我ながら何ともおかしな問いだと思った。青年はびしょ濡れのフードを下ろし苦笑して答えた。
「……ある意味では、そうだろうね」
全くの他人ながら、何ともおかしな答えだと思った。
それが三日前。死神の岬で、死神と出会った、ただそれだけの記憶。
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