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死神の岬へ  [作者:直十]

■12

  それは、その晩のことだった。
  慶吾は眠っていた。ベットの中で、深い眠りの中にいた。心地よい夢を見ていた気がした。
  それなのに、慶吾は目を覚ました。ほとんど強制的に眠りから引きずり出され、目を覚まし、起き上った。
  窓の外を見ると、闇が少しだけ薄らいでいた。夜明けが近いらしい。
  どくり、と心臓が鳴いた。
「なんだ……?」
  眠りから起きたばかりだというのに、妙に目が冴えていた。
 周囲が、周囲の空気がまるまる変質してしまったような、そんな違和を感じる。知らず、背に汗が浮かんでいた。
  ふいに、隣のベッドで眠っていた玲奈も体を起こした。
  彼女は寒さを感じた時のように自らの肩を抱き、不安そうに周囲を見回していた。そしてすでに起きていた慶吾に気づく。
「慶吾……」
  不安そうな声に、慶吾は小さく頷く。この異様な雰囲気に自分も気づいている、という意味だった。
  この感覚を言葉にするならば、嫌な予感、というのが近かった。
  慶吾はベッドから降り、青年から借りた寝間着代わりのシャツの上に制服を羽織った。
  慌ててベッドから降りる玲奈を横目に、慶吾は居間へと続く扉を開けた。
  その先では青年が慌ただしく寝室から出て来たところだった。青年も慶吾に気づき、少しだけ困ったような、だけど険しい顔をした。
「……どうなってるんだ?」
  そう問うた時、玲奈も制服を肩にかけて出てきた。不安が拭えないのか、顔が蒼白になっている。
  この、嫌な予感。青年なら何か知っているような気がした。
  空気が濃度を上げて、体に粘つく感じ。空気全体が、重い。こんな感覚は初めてだった。
  これから何かが起こる。そんな警報が頭の中で鳴っていた。
  だけど青年はその問いを無視し、外に出る戸に手をかける。
「おいっ」
「君が望むのなら、見ればいい」
  青年は振り返って、その澄んだ青い瞳を慶吾に向ける。
「だけどそれを見たら、後悔するかもしれない。絶望するかもしれない。……それでも、見るかい?」
  どこか挑戦するような言い方だった。少なくとも慶吾にはそう聞こえた。だから――というわけではないが、慶吾は、頷いた。
「俺は行く。これから何が起きるのか、見たい」
「……そうか」
  青年は頷いて、慶吾の後ろ――玲奈に視線を向けた。玲奈は一瞬怯んだようだったが、唇を引き結んで、頷いた。
「わかった。行こうか」
  青年が扉を開けて外に出る。それに続いて慶吾と玲奈も外に出た。夜明けが近い夜の冷気が、頬を撫でていく。東の空が朱い。
  冷たい空気を吸い、吐く。その冷たさに意識が研ぎ澄まされていく。
  青年は家から離れた所に立ち、草原の彼方を見た。日が昇る東の海を背にした、まだ黒々と夜の闇が残る地平線。
  そこに、一点、白いものが見えた。



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