死神の岬へ [作者:直十]
■1
「あなたは、死神ですか?」
そう言われた青年は真っ黒なマントのフードを下ろし、小さく苦笑した。その奥から慶吾を見ていたのは、空に似た蒼い瞳。
「……ある意味では、そうだろうね」
とても人間臭い表情だった。
死神の岬へ
目の前に広がるのは風に揺れる一面の稲穂と、青々とした葉を茂らせる畑と、その向こうに広がる海と水平線。
慶吾は地に腰かけてそれらを眺めていた。時折前髪を揺らす風は、潮の匂いを孕んでいる。
慶吾は学校の制服を着た、どこにでもいそうな少年だ。田畑と海を見つめるなんの変哲もない黒い瞳は、暗く沈んでいるように見える。
「慶吾」
ふいに名を呼ばれて、慶吾は振り返る。そこにいたのは同じく学校の制服を着た玲奈だった。
玲奈は黒い髪を肩ほどまで伸ばした、これまたどこにでもいそうな少女だった。
慶吾と玲奈は同じ学校のクラスメイトで、二人でここに来たのだった。
玲奈は慶吾の隣に座る。また潮を孕んだ風が吹き、慶吾と玲奈の髪を揺らした。
「ねえ、これから……どうする?」
「どうするったって……」
玲奈の問いに、慶吾は困惑の表情を浮かべる。
「……どうしようも、ないだろ」
その答えに玲奈は、落胆というよりはもうすでに諦めていたような顔で俯いた。
「そう、だよね」
慶吾のそれに似た暗く沈んだ瞳と全てを諦めたような玲奈の表情は、どこかすでに死んでしまっているように見えた。
慶吾はそんな玲奈の横顔を見つめて、だけど何も言えずにいた。そんな顔をする玲奈に、何と声をかければいいのか分からない。
そのとき、
「けーごくーん! れなさーん!」
暗い空気の中、やたら明るい声が二人を呼んだ。
二人して振り向くと、少し離れた丘の上で黒いマントを羽織った青年が二人に手を振っていた。
「そろそろお昼にしませんかー!」
よく見れば、青年は腕に畑の作物を収穫してきたらしい籠を下げていた。
二人は顔を見合せ、やがて慶吾が小さく笑って「行こうか」と言うと、玲奈もつられるようにやっと笑ってうん、と頷いた。
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