スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
スピッツ歌詞TOPオリジナル小説神様のサイコロTOP>神様のサイコロ_02

神様のサイコロ  [作者:ユウコ]

■ 第1話 電車の中にて

晴美は急いでいた。

めったにしない寝坊をしてしまい、会社の出社時刻に間に合いそうになかったからだ。

駆け足で階段を駆け上がり、ホームに出た。
閉まりかけの電車のドアの隙間に体を滑り込ませ僅かな隙間を確保する。電車は満員で暑苦しかったが、いつものことだ。
晴美は大きく息をついた。とりあえず間に合うだろう。

「1と3。足して4だな・・・・・・」



と灰色の髪と瞳をもった少年がつぶやく。

「・・・・・・4?」

その隣で私は溢れる涙を拭って聞いた。


晴美は顔をこわばらせていた。

晴美の前に立っている中年男から強烈なアンモニア臭が漂ってくるからだ。男の頭は身体の中で分泌された油で覆われ、
ところどころにフケが浮かんでいる。

当然、周りの客も迷惑そうな表情だった。晴美は我慢できなかったので、満員電車の中をかきわけて別の場所に移動しようとした。

その時・・・・・・、

女性の短い悲鳴と共に黒い衣装を身にまとった男が晴美の目の前に飛び込んできた。

同時に感じる腹部の痛み。それはだんだん強くなり、晴美は立っていられなくなった。
晴美は床に手をつき腹部を押さえた。腹部から温かい液体が流れ晴美の手から滴り落ちた。

それは紛れもなく真っ赤な血。

晴美は血だらけの手を眺める。
時がゆっくり過ぎていった。今日、寝坊していなければそんなことなかったのに…。
いつも決まった時間に起きる私が寝過ごすなんてちょっと信じられなかったけど。
それは神様が決めた私の運命だったんだ…。
ねぇ、雅也…好きだよ。あなたと結婚したかった。あなたとあなたと私の子どもと幸せな家庭をつくりたかった。

さようなら。

時が再び動きだす。晴美はゆっくり目を閉じた。電車のドアが他人事のようにゆっくりと開いた。

「4は死を意味する。だから4を使うときに寿と使うこともあった」

少年は顔色ひとつ変えずに言う。

「可哀想に・・・・・・、本当は付き合っていた人にプロポーズされるはずだったのにね。
死と寿・・・・・・、幸せと不幸は紙一重なんだね。」

私はやりきれない思いのまま花束が置かれたホームを後にした。



↓目次

【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】 → 【8】 → 【9】 → 【10】 → 【11】 → 【12】 → 【13】