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春の歌  [作者:三日月 遥]

■第4章

私と彼が出会ったのは補習の教室だった、と思う。
はっきりとは覚えていない。思い出せない。
でも、本をかたづけていたときに声をかけられたのは覚えている。

「水沢さん…?だよな。」
いきなりだった。
私がうなずくと彼はほっとした表情を見せた。
名前を間違えていないか不安だったのだろう。
そして少しだけ私に近寄り、「よかったらさ、この後宿題教えてもらえない?」
と、彼は屈託のない笑顔でそう言った。
私も「はい。」と、一言、聞こえる程度に言った。

彼のノートはめちゃくちゃだった。
漢字は間違えまくり、行もわからなかった。
私が彼のノートをのぞいているとこちらの視線に気づいたのか、彼はいったん鉛筆を止めて小声で呟いた。
「俺さ、…医者に…なりたいんだ。」
そして彼は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「今の成績じゃとうてい無理なのはわかってるけど…。だから…」
だから私に頼んだんだ。言わなくてもわかってる。
なにかしら理由があるんだろう。人には言えないような理由が。
そんな彼を私は応援したくなった。

その日以来、彼は毎日のように私のところに来るようになった。
夜はメールで質問が飛んでくる。電話の時もあった。

一ヶ月がたって、彼の成績は見違えるぐらいにとてものびていた。
その頃になると、私はもう「水沢さん」ではなく「春菜」だった。
「やった!やったよ春菜!」と飛び跳ねてよろこんでいた。
そのまま私のもとへ駆け寄り、1回笑った。
そして無邪気な笑顔ままで彼は偶然鍵の開いていた会議室に私を連れ込んだ。
そして、「好きだ」と一言告げて、私の答えを聞く前に少し強引なキスをした。



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