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春の歌  [作者:三日月 遥]

■第11章

電車は3つほど山を越える。

私は2つまでしか越えたことがない。
だから3つ目ははじめてだった。

窓の外には見たこともない景色が広がっていた。
「私たちもさ、まだトンネル一つ越えただけだよね。まだ始まったとこだよね…。」
私は泣きそうだった。
彼は横を見て「あぁ。そうだな。」とそっけない返事をした。
彼もきっと精一杯なんだろう。


電車はもう、止まってしまった。

駅に着いてしまったんだ。

私たちは無言で駅に降りた。



それからはあまりなかった。
しゃべりもしなかった。
顔も見れなかった。


けれど、最後に彼は新幹線の窓に「るてし愛」と逆に書いていた。
私に見えるように文字は裏返してあったのだけれど順番は変えていなかったからそうなったのだろう。
小さく笑った。

そして、ガラス越しの彼の手に手を重ねた。
温度が伝わってくるようだった。


ベルが鳴った。


彼を乗せた電車は発車した。



私は手を戻した。


泣いた。

無意識に声を上げた。


さよなら。なお君。



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