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春の歌  [作者:三日月 遥]

■第7章

その時は気づいていなかった。

幸せの夢がとぎれる前兆に。

自分が何者であったかも、

忘れてしまいそうになるくらい…。



「春菜…。進路とか考えたことある?」
突然彼はそう言った。
そう言えば彼は東京で医者になりたいなんて事を言っていたような気がする。
「なお君はお医者さんなんでしょ?」
私は少し残念気に言ってみせた。
すると彼はさらに下を向いて「うん。」と言った。
彼の顔が長い彼の前髪で見えなかった。
「前髪、長くなってるよ?あ、私切ろうか?」
多分、私はこの重苦しいムードを切り替えたかったんだろう。
何気ない会話でもいいから、沈んだ会話なんて彼らしくない。
彼はまた「うん」と言った。
私はコスメポーチに入っていた小さいはさみを取り出し、彼の前髪を切っていった。

切り終わった時、初めて彼の目が見えた。
まっすぐ、私を見ていた。
暗い、沼のような…。そんな瞳だ。

「春菜…。俺、来週から東京に行くんだ。」



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