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春の歌  [作者:三日月 遥]

■第10章

彼は今日、いなくなる。
この町から、
この場所から、
そして私の前から。



なお君はお昼の新幹線で行くらしい。
夜にしたかったけれど、そこの枠は丁度なかった。
明日だったらあったかもしれないのに。
もちろんみんなは呼ばなかった。
最後くらいは二人で居たかったから。

私たちは今までの道を歩いこう、と約束した。
まだみんなの起きていない4時過ぎに。
坂道を上ったところのなお君の家からは日の出が見えた。
彼はまるで子どもみたいに「スゲぇー!」とはしゃいでいた。
私もそれにつられるかのようにはしゃいだ。

日の出をみた後、自転車で海を見に行った。
海は少し風が寒かった。でもそれより朝陽がきれいだった。
光が海面に反射していてとてもまぶしかった。
それを見ているなお君もきれいだった。
「何?」と言われたけど言わなかった。
言ったら笑われるから。

それから、手をつないで海岸を歩いた。
貝を拾って石切りをした。
私はうまくできなくて彼に笑われた。
そう、彼は石切りの天才かもしれない。
普通に投げて7段飛びぐらいになっているものだ。
どうやったらそんな風になるのだろう?
不思議でたまらない。

「さて…どうする?」
彼は唐突にそんなことを聞いてきた。
私は顔を赤くした。
でも、帰りたくはなかった。
このまま、手を離したくなかった。
私は顔を上げて、彼の顔を見た。そして正直に胸の内を明かした。
「私…なお君と居たい…。」

すると、彼はすべてを悟ったようにテトラポットの裏に私を連れて行った。
「な…に?」
彼はヒトのような動物のような目をしていた。
怖い。
彼は私の肌に手をやった。私はその手に自分の手を重ねた。
彼の手は震えていた。
「春菜…。俺、春菜のこと忘れたくない。」
泣きそうな声で彼はそう言った。

私はうなずき、二人は行為をはじめた。
痛みと閃光が体を走る。
何度も名前を叫び合う。

そして二人は終えた。



もう、あたりは明るくなっていた。
今は何時なのだろう。
あれから何分たったのだろう。

もう、何も考えられない。
なお君でいっぱいだ。
彼の方も「受験失敗して浪人したら春菜のせいだからな。」と言っていた。


少し落ち着いたので私たちはまた自転車で走り出した。
少し早いけれど、いったん町に出ないといけないので早めに行く事にした。

自転車を置いて、電車に乗り込んだ。



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