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悪魔のような君へ [作者:ユウコ]

■第7話

「君の胸に深く刻まれた傷を僕は癒すことができない 」


翌日、男はデュノが差し出した黒い籠をひったくるようにして持っていく。デュノが与えた罰の一つが相当効いているのだろう。
僕は男の視界に入らないよう実を拾い続けた。デュノは男を監視しているようで、その瞳は男を追いかけていた。
そんな男のために美しい瞳を使って欲しくなかった。それが僕の心境。

男は監視されることに嫌気がさしたのか、しびれをきらしたように肩を鳴らしデュノに近づいた。
デュノは容赦なく男に鞭を振るう。男はデュノと距離をとり叫んだ。

「はは・・・・・・。あんときの子供がここにいるとはな!」

あんときの子供・・・・・・?
僕は声のするほうを振り向いた。デュノの顔はみるみるうちに青くなった。デュノはあの男を知っていたのか?
他にも実を拾っていた6人も男とデュノに視線をやり、何事かと顔を見合わせていた。

「お嬢ちゃんが一番、最高だったなぁ」

「こ・・・・・・これ以上言うな!」

デュノは鞭を強く握り締めた。デュノを取り囲むように風が舞い上がる。彼女の長い髪はごわごわと逆立っていく。

「嬢ちゃん抱いてから他の娘抱いてもいまいちでなぁ」

「こ・・・・・・殺す!!」

デュノは鞭を振った。鞭は男の首に絡みつき、きつく縛り上げた。男は痛そうにしていたが、苦しそうではなかった。

「お前は死んでいるから苦しみは感じないが、痛みは尋常でないはずだ」

デュノは鞭を空高く掲げた。男の足が宙に浮く。

「私はあんたのせいでどれだけの傷を刻まれたと思っているんだ!身体だけじゃなく心も傷ついたんだ!
あんたから解放されたときすべてが闇になった。どこを見ても闇だったんだ!私は自ら闇の中を歩き続けた。
終わりのない闇の先にいた自分自身と出会った。彼女は私に悪魔にならないかと誘ったんだ。私は自分の死と交換に悪魔になったんだ!」

デュノは全ての憎しみを込め勢いよく鞭を振り下ろした。男は地面に叩きつけられた。
もし生きていたら身体の原型をとどめてないくらいぐちゃぐちゃになっていたかもしれない。
デュノは男を鞭から解放し、男の身体を踏んだ。

「もうお前は消滅しろ。地獄なんか行く資格なんかない!」

男は朦朧とした意識のなか目を見開いてデュノを見上げた。男は彼女の言葉を無理やり彼女によって悟らされたのか身体全体が震えている。
デュノは目を閉じ右手をすっと差し出した。男の周りには見慣れない文字が現れ、その文字は形を変えながらゆらめき、男をすっぽりと包んだ。
僕はいつの間にか部屋に戻り椅子に座っていた。
ふと、正面を見る。
デュノは僕と向かい合わせに座っている。

「気がついた?」

デュノは薄く笑みを浮かべる。僕はまた気を失っていたのか?

「あ・・・・・・うん。」

「まぁ、皆もいつの間にか部屋にいるからビックリしてるだろうね」

どうもデュノが気を失った僕らを部屋に戻したらしい。

「あの男は・・・・・・?」

「消えた。魂もすべて」

デュノは僕の言葉を遮るように冷たく言い放つ。

「よくそんなこと聞けるわね」

デュノはどこからか鞭を取り出した。

「あ、ごめん・・・・・・」

僕はうつむいた。デュノはあの男のせいで身体も精神をズタズタにされたんだから殺したい程、
憎かっただろう。さっきの質問はデュノに対して失礼だったと僕は反省した。

「分かればいいのよ」

デュノはすっと立ち上がった。
デュノはいつの間にか現れた窓の傍に歩み寄り、僕に背を向けて喋り始めた。

「私、現実が受け入れられない余りに幻覚を見ていたの。もういくつもの街を歩いたでしょうね・・・・・・。
私自身が出てきて悪魔の契約を交わしている最中、どこからか音が聞こえたの。何かをしらせて警告する音が・・・・・・」

彼女は服の裾を握り締め、続ける。

「あれは踏み切りの警告音だったの。私は電車に跳ねられて考える余裕もないくらいあっさり死んだわ」

僕は言葉を失った。それと同時に分かったことがあった。

「もっと生きたかった。もっと色んな場所に行きたかった。もっと友達と一緒に笑いたかった。それをあの男がたった二時間で奪ったのよ。許せる?」

僕は首を横に振った。

「許せない・・・・・・。君は僕のことも許せないんだろ?」

「そうよ。もっと生きれるはずなのに自ら命を絶つ奴なんか許せない。私から見れば贅沢極まりないわ!」

デュノは僕の胸を強く掴んだ。そして泣き崩れた。

僕は泣いてるデュノの前にして何もしてやれないこと、もっと生きていれば何かがあったかもしれないという後悔が今さら押し寄せてきて、
ますます複雑に悲しくなるだけだった。






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