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悪魔のような君へ [作者:ユウコ]

■第6話

「最悪な入居者に与えられた罰 」

僕は真っ暗な闇の中にいた。
不思議と怖くなかった。
僕はただ前を見てまっすぐ歩いた。
風が僕の髪を通り抜ける。
僕は後ろを振り向いた。
今まで暗闇だった景色ががらりと変わる。
そこは辺り一面、色とりどりの花に覆われた花畑。
僕は花を踏み潰さぬよう注意を払う。
ふと、顔を上げる、
そこにいたのは幼稚園の制服を着た結佳だった。
結佳は僕の服を引っ張る。
何度も、何度も・・・・・・。
僕は結佳と同じ目線になるようしゃがみこんだ。
彼女は泣いていた。
彼女の泣き声に反応するかのように、花はみるみるうちに枯れ、辺りは荒れ果てた荒野になってしまった。

結佳。

僕は彼女の名を呼ぶ。
彼女は泣き止まない。
僕は小さな身体を震わせて泣く結佳を抱きしめた。

怖い・・・・・・。

その声は紛れもなくデュノだった。

デュノ。

君はそんな華奢な身体を震わせてどんな恐怖を抱えて怯えているんだ・・・・・・?
その時、突然目の前が眩しくなって夢から醒めた。珍しいくらいはっきりと。
窓から見える景色は暗いが、一日の始まりがやってきた。
僕はベッドから足を下ろし、しばらくぼーっと壁を眺めていた。

デュノ・・・・・・。

君は僕に何かを訴えているのか?
相変わらず僕は実を拾う日々を過ごしていた。
デュノは”茶色い実”というが、どう見ても栗にしか見えないので僕は栗拾いしている感覚にしかならない。
だが、栗拾いにしてはトゲトゲしたイガがなかったのでデュノの言う通り正確に言えば栗ではなく”茶色い実”なのだろう・・・・・・。

「よう、兄ちゃん」

僕の横から五十代くらいの男が声を掛けた。男は片目が真っ白だった。
薬品かなんかをかけられてやられてしまったのだろう。顔つきも何となく悪かった。犯罪の一つや二つを犯しているような雰囲気だ。

「私語は厳禁です」

僕は短く男に注意すると、実を拾うために腰を落とした。
男は耳も遠いのだろう。男は僕が無視をしたと思い込んだらしい。

「人の話が聞こえんのか!」

男は僕の頭を叩き割るようにして両手を振り下ろした。脳天に衝撃を受けた僕はあっけなく気を失ってしてしまった。
僕はこれまで何回、気を失ったのだろう・・・・・・。
気がつくとデュノの顔が真正面にあった。

「気がついたようね」

デュノは僕の頬を叩く。僕は頭を押さえて起き上がった。まだ、殴られた衝撃が残っているせいか頭がフラフラするのだ。

「あの男はうんと罰したわ」

デュノは背の高い椅子に寄りかかる。

「あ・・・・・・うん。」

一体どんな罰を与えたのだろう・・・・・・?

「あの男・・・・・・1002番は悪質な性犯罪者だったの。
犯行現場を目撃した人に追いかけられてビルの屋上まで追い詰められて飛び降り自殺をしたのよ。
彼は一度も罪に問われたことがない。被害者は一生消えない傷を深く心刻み付けられたわ。・・・・・・浮かばれないわね」

デュノはこめかみを押さえた。指がかすかに震えている。デュノも一応、少女だから怖いのだろうか・・・・・・?

「最悪な入居者がやってきたわね」

夕食、食堂には男の姿は見当たらなかった。デュノの罰はまだ続いているということか。僕も男の顔は見たくないから丁度、助かった。

「食事を始めなさい」

デュノは相変わらず食器を鳴らしている。せめてそこは場の雰囲気を考えて真鍮のベルで鳴らして欲しいものだ。

「今日はいいこと教えてあげる」

いつもは無言で皆が食べる様子を見守っているデュノが珍しく口を開いた。

「この茶色い実はねあなたたちが存在するために必要なものなの」

何人かが手を止めた。僕もつられて手を止める。デュノはにやりと笑って続けた。

「これを食べなかったら・・・・・・そうね。ここでは3日ぐらいしかもたないかしら。死んでるのに何で食べるんだろう?
って思ったでしょ。これで分かったならさっさと食べなさいよ」

デュノはそう言うと、椅子に腰掛けて足を組んだ。手を止めていたものは一斉に実を食べ始めた。僕は手を止めたままデュノを見ていた。
デュノは悪魔だな・・・・・・。
僕は思った。
デュノが男に与えた罰は3日で地獄すら行けず存在を消されるという酷なものだったことを同時に理解した。






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