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悪魔のような君へ [作者:ユウコ]

■第4話

「地獄の存在について僕は考えてみた 」

僕は夢を見ていた。
あの三つ編みのおさげの女の子がいた。
女の子は僕に話し掛けてる。
僕は女の子の言葉が聞き取れなかった。

―ねぇ、もういっかい言ってよ。

女の子は笑顔で僕の耳元で囁く。

―わたしねひっこししちゃうんだ。

―そうなの?

―でもねいつか会えるよ。

女の子は笑顔で手を振って走っていった。
僕は女の子を追いかけた。
女の子はどんどん遠ざかるばかりか、あたりは暗くなってた。

―待ってよ!

僕は叫んだ。
女の子は振り返った。
僕は思わず立ち止まった。女の子はいつの間にか成長していた。だけど、顔が暗くて見えなかった。
ちがう、
首から上が真っ黒に塗りつぶされていた。
でも、なぜか彼女の口の動きだけは恐ろしいくらいハッキリと読み取れた。

―わたし・・・・・・死にたくなかった。

「起きたようね」

目を開けると不機嫌そうに僕の顔を覗くデュノがいた。それも距離が近い。僕はまたまたわっ、と短い叫び声をあげた。

「さっきから叫びすぎよ。耳にキンキンくる」

デュノはバシッと鞭を僕の足におろした。

「痛っ!」

「夕食の時間よ。わざわざ起こしにきたんだから感謝しなさいよ」

デュノは僕の腕を引っ張った。彼女の力は思ったよりも強く、僕は反動でベッドの上から落ちてしまった。

「っ・・・・・・」

僕は顔を押さえた。見事に顔が床に直撃したからだ。幸い鼻血が出なかったのが救いだ。
僕はデュノに案内され、食堂にやってきた。
そこで、皆と食べるそうだ。
長いテーブルの上に敷かれた真っ白なテーブルクロス。その上には蝋燭が等間隔に置かれていた。

「1008、あなたの席よ」

デュノは一番端の席を指した。僕は椅子を引いてすわった。椅子に座っているのは僕を含めて8人だった。
僕の向かい側にはマゾの青年が座っていた。青年は不気味な笑みを浮かべて僕を見ている。僕は目をそらした。

「早く食べなさい。私語は厳禁」

デュノはスプーンと食器を鳴らして合図をした。僕以外の7人は一斉に食事にとりかかった。
少し出遅れた僕は気を取り直して食器に載せられた食事を見た。

「・・・・・・これ」

真っ白な丸いお皿の上に載っていたのはどう見ても栗だった。日本人にはお馴染みの天津甘栗そのものだ。

「1008番、もたもたしてると食事の時間終わるわよ」

デュノは鞭を鳴らした。僕は栗の皮をむいて食べた。要するに自給自足か・・・・・・。死んでいるせいか味はしなかったが、食事しないよりはマシだろう。
栗を全部たいらげた時、デュノは食器を鳴らして食事の終わりを告げた。

「1005番以外はさっさと部屋に戻りな」

1005番と言われた人物に目をやる。1005番は30代くらいの女性だった。やせこけた頬、げっそりと痩せた葦のような細い身体。
きっと拒食症から鬱になって自殺したのだろうか・・・・・・?
女性はしきりに目を動かし何かに怯えていた。僕はちょっと気になったがデュノの鞭が飛んできたので食堂を後にした。

「あの女性がどうなるか知りたいだろ?」

そう話しかけてきたのはマゾの青年だった。

僕は無視しようとしたが、彼は僕を掴んで離さない。僕はさりげなく彼の手を離そうとしたが、そうすればするほど彼は力強く掴んできた。
まるでスッポンじゃないか。

「分かりましたよ。どうなったんですか?」

僕は半ば諦めた口調で言った。青年は嬉しそうな顔で教えてくれた。

「地獄へ行くんだよ。デュノさんが1005番を地獄に送ってあげるんだよ。次は1004番が地獄へ行ってその次は僕なんだ」

「順番、分かるんすか・・・・・・?」

僕は小声で聞いた。いつデュノに聞かれているか分からない。

「ああ、君は7番目に地獄へ行く」

なるほど。自分の視点から見て1005番が1番目で1004番が2番目でマゾの青年が3番目に地獄へ行っているって訳か・・・・・・。
残りの7人が地獄へ行ったら次は僕か・・・・・・。
地獄って一体どんなところだろう。
小さいとき父親に見せられた地獄絵巻のような世界なのか?
閻魔大王や鬼が出てきて、釜ゆで地獄や灼熱地獄に廻されるのだろうか・・・・・・。
いや、これは仏教上での地獄の姿だ・・・・・・。
キリスト教では永遠に火に焼かれるとか焼かれないとか色々と解釈があるらしいが、本当のところは良く分からない。
”地獄の待合室”にいる限りそうは感じない。
全く見当がつかなかった。
そうか、宗教の考え方は捨てよう。今ある現実がまったく違うのだから。
僕は日本人だから仏教の地獄のほうが馴染みが深い。だから地獄というと肉体的苦痛のイメージが強い。
本当の地獄・・・・・・。
それはなんだ・・・・・・?
永遠の精神的苦痛なのか・・・・・・?永遠の肉体的苦痛なのか・・・・・・?

「一番、残酷なものよ・・・・・・」

いつのまにか僕の隣にデュノがいた。
デュノはふぅ、と息を落とすとゆっくりと長い廊下に伸びた闇の中へ消えていった。




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