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悪魔のような君へ [作者:ユウコ]

■第8話

「デュノ・・・・・・いや結佳、君は大丈夫・・・・・・?」

「ええ。大丈夫よ。私も死んでいるのだから」

「・・・・・・僕はどうかしている」

「それは私も同じよ本当にどうかしる。そもそもここへ来る時点でどうかしてるのよ」

「もう一度いい?」

「何でいちいち許可求めてくるのよ」

「癖になってるんだよ」

「こんな時ぐらい普通の女の子でいさせてよ」

「普通の女の子って言われても・・・・・・」

「それよりさ、初めてだったの?」

「え?何が?」

「とぼけてるんじゃないわよ」

「痛たた・・・・・・はい、そうです。」

僕の腕の中で安心したように眠っているデュノに目をやる。
なんだか信じられない光景だ・・・・・・。
正直に言えば、突然すぎてあまり記憶に残っていない。本能のまま行動した。そんな感じだ。
デュノの激しい口づけにはまいった。泣き叫んだかと思ったらいきなり僕の口を塞いできたからだ。

「ん・・・・・・。寝ちゃったみたいね」

デュノは片目を開ける。

「そうだね。」

「じゃ、もういっかい」

デュノは僕の上に乗った。僕は嬉しい気持ちをわざと隠してやれやれ、と表情をしてみせた。
僕らはお互いの全てを持て余すことなく舐め合う。
そして"動物"としての当たり前で称えるべき行為をして果てた。

「悪魔と自殺者が交わって大丈夫なのかよ?」

僕は真っ白なシャツをすっぽりと上から被る。デュノは僕の目の前で産まれたままの姿を晒けだしてる。

「さぁ?それは分からないわ。」

「ここは掟はないのか?」

デュノはベッドの上に放りだされた漆黒のワンピーツに袖を通す。ワンピースの中央にはユリのモチーフが彩られている。

「掟?私は目の前にあることをやっているだけよ。悪魔になったって別に誰かがああしろこうしろと命令している訳じゃないし」

「え・・・・・・そうなんだ?」

「そうよ。それも一種の”本能”よ。産まれたばかりの馬がすぐに立って歩くみたいなものね」

それは意外だった。デュノ以外に悪魔がいてそれぞれの任務を命令されてそれを実行しているだけだと思っていたからだ。

「それにね、ここは”地獄の待合室”って言ってるけど怪しいわ。私にもここはどこかすら分からない」

デュノは薄く笑みを浮かべた。部屋がちょっと薄暗かったせいかその笑顔は不気味に見えた。

「でもね、あなた達が行き着く場所は私にとって地獄みたいだから地獄って呼んでるだけ」

デュノは灯りをつけた。彼女の服はいつの間にか飾りもなに一つない真っ白なワンピースに変わっていた。

「ところで、自分自身がなくなることを考えたことがある?」

デュノは視線を床に落とし、小さく呟く。

「自分自身がなくなる・・・・・・?」

あの男のように魂の存在が消えることなのか?

「魂はそのまま。だけど自分自身じゃなくなる」

デュノは両手をすくうようにして差し出す。彼女の手の平からほのかな光が現れる。真っ白で今にも消えそうなかすかな光・・・。

「魂は媒体として考えて。そしてそこに宿るのはあなたの意思、考え方、行動、すべての記憶・・・・・・。
それをまとめて”あなた”とする。あなたは自殺をした。自殺は自分自身を殺す行為。
だからあなたは”あなた”を殺したことになる。そして殺されてしまった”あなた”は二度と甦ることなく消滅するの」

僕はデュノの言葉を何一つ漏らさず聞いた。
つまり僕は”僕”を殺した。魂に宿っていた”僕”が消えて・・・・・・。

「じゃあ、僕は僕自身でいられないってことか?」

「そう。飲み込みが早いわね」

僕にはもう時間が残されていなかった。





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