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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■26

走って、走って、走って。フェンスの前へ僕は立つ
真っ暗で、何も無いように見える 少し、怖い。
僕は不安や恐れを踏み潰してフェンスに手を、足をかけてよじ登る
てっぺんまで来たら面倒くさくなって、上から飛び降りる。
足がじんじんする、――いや、そんなの今はどうでも良い。
そんなことより、ホタルは、どこだろう。僕は狂ったようにホタルの名を叫ぶ
「ホタル!どこ!?」
辺りを見回してホタルの影を探し求める
「ホタル!ホタル!」僕は草むらを分けて、闇の中を探し彷徨う

「カズマ?」
ふいに後ろから声が聞こえた。僕はハッと後ろを振り返ると、虚ろな目をしたホタルがそこに立っていた
「ホ・・・タル。」
「どうしたの?カズマ。何かあったの?」ホタルは心配そうな眼をしてこっちへ駆け寄る
僕は溢れて来る涙を止めようとして、ホタルを抱きしめる
強く、強く、ホタルが壊れてしまうくらい、強く抱きしめる
「・・・カズマ?」
ホタルは少し驚いたような声で僕を尋ねて、僕に合わせて、後ろに手をまわす
僕らは夜に溶け込むように、ただただ抱き合う

「カズマ、行こうよ。」ホタルが僕の胸でそう言う
「行くって、どこへ?」そう尋ねるとホタルは唇の両端をキッとあげて
「良い所へ、連れてってあげる。」と妖しく微笑む

そうして僕らは手を取り合って、走り出す
ホタルは裸足で、僕はいつものスニーカーで。
左腕にはお気に入りの腕時計。時間は1時とちょい過ぎ。

右足を出したら次は左足を、そしたらまた右足。
手は決して離さぬように。僕がギュッと握りしめると、ホタルもキュッと握り返す
そうして顔を見合わせて、フフフっと笑う。
目が合うだけで、こんなにも楽しい―。
恋ってこういうものだったかも。そんなこと考えて僕は走り続ける

手と手を繋ぐ、ホタルの冷たい肌が少し切ない。けれど、確かに僕らは繋がっている。
目には見えぬ、細い糸で



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