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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■14

まるで、あの夜の出来ごとなんて何も無かったかのようにして
僕はいつもの毎日、を繰り出す

何も無かったかのようにして着替えて、朝食をとり、歯を磨いて・・・

あっ、欲しい本あったんだ。
発売日いつだっけ?駅前の本屋に売ってるかな?

財布持って、ケータイ持って、髪もとかして、靴履いて、
いつもの、道を歩く

コンクリートで舗装された、レンガのような赤茶色の道
違う、この道じゃない。
昨日、ホタルと駆け回ったあの地面とは違う
あそこはもっと、草がぼうぼうで
舗装なんかされていなくて、散らかっていて、湿っぽくって・・・

あんな場所だけど、あの瞬間が愛おしい

あれは、幻なのではないか?
僕のただの妄想や、空想。  夢だったんじゃないの?

違う、違う、違う。
僕は確かに、ホタルを抱きしめた時の感触をこの手で、腕で、感じた
ギュッと熱く抱きしめて、ホタルを体で受け止めた

確かに、僕はホタルを感じた

コンクリートの固い地面は僕の足音を遠くまで響かせた

そうだ、この道を今朝、走ったのだ
風を受け止めながら、朝陽のぬくもりを感じたんだ


右手を伸ばし、フェンスに手をかける
ホタルが、居るような気がして。

僕は呼びかける、一つの名前を。ずっとずっと
「ホタル・・・・」
横目で、フェンスの向こうを見る
やっぱり、草がぼうぼうで荒れている

ここを、飛び越えればまたホタルに、会えるのかな?
飛び越えたい、
こんなにも、近くにいるのに。
飛び越えれば、会える。そんな気がする

「何やってんだ・・・自分・」
両手をフェンスにかけて、ただただ遠くを見つめている自分につぶやく

左手を放し、右手だけフェンスを触りながら本屋へと歩く

ときどき、横目で柵の向こうをみたりしながら。
鼻で少しだけ笑って、また歩く

8月の空が青くって、夏が終わりへと近づいているのを僕は感じた



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