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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■17

お風呂に入って、宿題と勉強をして、僕はまた、時計が一時をさすのを待った
家族が寝静まり、僕はこっそりと外へ出る
履き慣れたスニーカー、いつものズボン、虫刺されスプレーは・・・大丈夫だろう。
昨日は何も付けてなかったのに、珍しく蚊に刺されなかった
不思議、蚊も夜は寝ているのかな。
昨日、時計忘れちゃってたからな、今日は持って行こう。
スプレーをげた箱の上に置き、扉を開けて閉めて。
鍵もかけておこう、さあ、行こう。ホタルのもとへ


「フェンスから先は別世界っていうの?なんか、あそこ絶対やばいって」

昼間の啓太の言葉がフッと脳裏をよぎる
違う、やばくなんかない。あそこは、安全だ。
だって、ホタルが居る。

別世界、そんなのあるわけない。非科学的だ。
ホタルが、手をすらっと差し伸べてその周りを蛍が舞う。
幻想的で、あたたかな、僕だけの世界

空を見ると、色鮮やかな月が、星が街を包む
この月を見ているのは、僕だけなのか、
いや、きっとこの世界のどこかで同じように見ている人が居るのだろう。
その人と僕は繋がっているのだろうか?
細い細い、糸で。


歩き続けて、フェンスの前に来た
ここを登れば、ホタルに会える
フェンス越しには彼女の姿が見えない。
どこに居るんだろう?その辺に居ないかな?
まあ、まずは「そっち」に行って見よう。
「そっち」でホタルを探そう、隠れてるのかもしれない。

僕はフェンスに手をかけ、よじ登る
そして、またジャンプして地面へ飛び降りる

目の前には、ホタルの姿があった
フェンス越しには見えなかったのに、ホタルはフェンスのすぐ傍に立っていた


「ずっと・・・ここに居たの?」
おそるおそる聞くとホタルはニッコリ笑って「うん。」と言う。
違う、そんなことあるわけない。
ただ、見えなかっただけ。そうだ、見えなかったんだ。
だって、ホタルはここに居るもの。
僕の目に見えるもの。

そうだよ、ホタルはここに居る、
幻なんかじゃなくって、僕の傍で確かに笑っている

「カズマ?大丈夫?顔が真っ青・・・」

ホタルが僕の顔を下から覗き込む
何にも知らないような顔で、黒目がちのその、瞳で僕を見つめる

「あぁ・・・うん、ちょっと気分が悪いだけ、
大丈夫。すぐ良くなるよ。」
僕がそう言うだけでホタルの顔はパッと明るくなる


真っ暗の闇の中に、ホタルの姿だけが浮かび上がる
まるで、蛍のように。

やっぱり、君にはその名前がピッタリだ、
すぐに消えてしまいそうな悲しげで、あたたかな蛍
僕の心を照らして、温めて。
奪って、走って逃げ去る



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