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飛ぶカモメ [作者:七味Y]

■2

外に出ると、哀しいくらいキレイな夕焼けだった。
きっともう少ししたら、星が顔を出すだろう。

怒りが冷めたのか、サナエが急に、
「ごめん。ボケるタイミング間違って。」
とつぶやいた。謝るんなら、蹴ったり殴ったりしないで欲しいけど。
「声、出さなくてわりぃ。」
と俺も言った。
サナエのこういう所は好きだ。

俺らはいつも『反省会』をする。
場所はとくに決まってない。喫茶店だったり、公園のブランコだったりする。
今日は川原に決定した。
始めははネタを振り返ったり、自分たちのミスを言い合ったりしてるけど、最後は大体、杉平の悪口大会になる。
普段はほとんど意見がかみ合わないけど、杉平が嫌いだということは一致してるから。

「もう暗くなってきたから、あたし帰るね。ばいばい。」
サナエはそう言って立ち上がった。
あぁ、もうそんな時間か。気づかなかった。
「じゃあな。」
俺は手をひらひら振ってみせた。

サナエの後ろ姿を見送り、俺も帰ろうと背伸びをした。
すると、ポケットに入っている携帯電話が鳴った。
待ち受け画面には≪杉平≫と出ている。今、一番話したくないヤツだ。

「もしもし。」
俺は不愛想に電話に出た。
『あ、もしもし?いやーギンジ君!おめでとう!!』
なんかやたらと機嫌がいい。普段より1オクターブ声が高いように感じるのは気のせいか?
「なにがおめでたいんスか?」
誕生日でもないし、宝くじも当たっていない。
杉平は嬉しそうに続ける。
『実は、さっきの舞台をアカネプロの取締役の鶴橋さんが見に来てたらしくて・・・』
杉平は一度言葉を切った。電話の向こうで深呼吸している。
『ギンジくん。ぜひ君をスカウトさせてくれってさ!君にはスターになる才能があるらしいよ!』
・・・・えぇ!!!
「ほっ本当ですか!?」
スカウト!?スターになる才能!?まさか星になれとかいう意味じゃないよな?

何はともあれ、生きてて良かった!!!

「そうだ、サナエはもうこの事知ってるんですか?」
あいつ、お笑いの事になるとこえーけど、その分すげぇ真剣だから。
それはたぶん、俺が一番良く知ってる。

それなのに。

杉平からの返事は、考えてもみないものだった。

↓目次

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