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飛ぶカモメ [作者:七味Y]

■1

__________悲しいジョークでついに5万年
__________オチは・・・涙のにわか雨・・・

にわか雨くらいならまだいい。
俺らは思いっきり白い目で見られていた。
「どうもありがとうございました!!
元々でかい声を張り上げて、相方のサナエはにこにこしながらカーテンの裾にひっこんでいった。
俺はサナエを追うように、小走りで舞台を後にした。

楽屋(といっても恐ろしくボロい)に入った瞬間、
「こるあぁぁ!!ギンジ!あの気の抜けた『ありがとうございました』は何だ!?」
という怒声と共に、左わき腹に鈍い痛みが走った。
激痛にしゃがみこんだ俺の目には、さっきまで笑顔だったはずの鬼が映っていた。

俺、永山銀次(19)と斎藤沙苗(19)はお笑い芸人のタマゴ。長野県出身。
小学、中学、高校とクラスが同じという腐れ縁。まさかこいつとコンビを組むことになるなんて、思ってもみなかった。
大阪に出てきたばっかりで、相方が居なくて困りまくってた時に偶然に再会してしまった。今から思えば、それが俺たちの始まりだった。
なんとなく話してるうちに、サナエも芸人を目指してて、しかも相方募集中だってことが判明した。

ちなみにコンビ名は『放浪カモメ』。
ウケた回数はなんと2回!
しかも、その2回とも舞台を見に来ていたうちのおふくろが、無理して精一杯作り笑いをしてくれてたってことがこの前発覚した。
・・・・そして今に至るわけで・・・・。

舞台の後は、いつもサナエの怒りが爆発する。
女とは到底思えない力で、あるときはパンチ、ひどいときはドロップキックをお見舞いしてくれる。

今日は鮮やかなアッパーが、俺のわき腹をえぐった。
「いってぇな!!お前、人のこと言えんのかよ!ボケるタイミング間違ったくせに!!」
俺のもっともな指摘に、サナエはぐっと言葉をつまらせた。

すると丁度良くドアが開き、俺らのマネージャーの杉平義男が入ってきた。
「はいはぁい。2人共、もう帰っていいよー。」
杉平の人を馬鹿にした態度には、本当にうんざりする。
サナエは杉平の姿を見るなり、ものすごい形相でにじり寄っていった。
「杉平さん。あの、次の仕事は・・・。」
サナエが全部言い終わらないうちに、杉平は笑顔で言い放った。
「予定はないよ。だって君たち、面白くないからね。」

『そんなこと、お前に言われなくてもわかってるっつーの。』
と思いつつ、俺は冷静に、
「そうですか。仕事が入ったら連絡下さい。」
とだけ言って、怒り沸騰中のサナエを引っ張るようにして楽屋をあとにした。

↓目次

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