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花泥棒  [作者:優]

■7

一階に下りると店長が入り口から店に入ってきたところだった。近くのコンビニで何か買ってきたらしい。

「お、起きたか。ほれ、メロンパンでも食うか?好きだろう」

「うん、ありがとう。
…店長、ちょっと出かけてくる」

初め店長は何のことか分からず首を傾げたが、すぐ秀の言葉を理解し険しい顔になった。

「追いかけるな、と言ったはずだぞ」

「それじゃあきっと駄目なんだ。心が向かうままにしてみたい。…いいだろ?」

店長はむぅ、とうなってしばらく黙り込んだが、やがて顔の筋肉をゆるめた。
そして1枚のタオルを秀に手渡す。柔軟剤のいい香りがする柔らかいタオルだ。

「雨降ってたから、もしかしたら使うかもしれん」

「うん、ありがとう。…行ってくるよ。また明日」

そう言い残して秀は暗闇の中へと出て行った。



秀は店を出てすぐに走り始めた。
月がほとんど隠れて道は暗く、見えにくかったがありったけの力で走る。
もともと足は速かったので、目的地には10分ほどで到着した。
さすがに休憩も準備運動もしていなかったので息は切れていたが。

咳払いをして呼吸を整える秀の目の前には、草が生い茂った吹樹原がある。

(まだここにいると思うけど…)

人が何度も通ったおかげで自然にできた道に足を踏み入れる。
周りの草木はさっきまで降っていた雨で濡れていた。
その雨粒が、ときどき雲の切れ間から差し込む月の光を反射してキラキラと輝いている。

しばらくその道を進むと、前方に人影が見えた。秀は足を速める。
相手も秀に気がついたようだが秀とは逆に足をゆるめた。
秀スピードが落ちた人影に、少し大きな声で話しかけた。

「やっぱり…まだここにいたんですね、玲奈さん」



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