甘ったれクリーチャー [作者:直十]
■21
ぼたぼたと零れ落ちる血は、止まることを知らない。ゾルヴァは傷ついた体をひきずるようにして、森の中を歩いていた。
全身が、酷い満身創痍だった。体のいたるところに酷い火傷を負い、どういうわけか全身に裂傷を負っていた。
ただの爆発ではなかったらしい。一番深い裂傷――脇腹の傷は内臓にまで届いていたのか、何度か血も吐いた。
口元にまとわりつく血を手の甲で拭う。
ゾルヴァは左腕に巻きつけたリボンに触れる。それは端々が切れてほつれてはいるものの、ゾルヴァの満身創痍に比べれば、
無事と言える状態だった。あのとっさの瞬間にこれを守ったのだから――だからこんなにも負傷してしまったのだが――当然といえば当然だ。
だけどゾルヴァは安堵の表情を浮かべる。
「……リリ」
そっと目を閉じ、その瞼の裏にリリの笑顔を見る。それだけで傷の痛みが飛び、体の底から力が湧いてくるようだった。
イシュは、正直ものすごく手強い。バルにもこれほど苦戦を強いられなかった。こんなにも深手を負った状態で、勝てるだろうか。
超えられるだろうか。わからない。だが、勝つのだ。どれだけ相手が強かろうが、どれほどの手傷を負おうが、勝つのだ。
明日また、リリと出会うために。リリの笑顔を無くさないために。
だってリリは、初めてできた大切な人なのだ。生きるために敵を殺し続け、終わりない連鎖の中でもがき続け、何度倒れそうになっても歩き続け、
死にかけてもなお起き上がり、それでも闇の終わりを目指していたゾルヴァにとって、リリは初めて見た灯りだった。
初めて心の中に根付いた、大事な樹だった。
だから失いたくなかったし、一緒にいたかった。心から愛した大切な人を、生まれて初めて手に入れた平穏を、どうして手放さなければいけないのか。
どうして引き離されなければいけないのか。そんな酷い世界があるのだとすれば、そんな世界は――滅びてしまえばいい。
だからゾルヴァは人類の全てを滅ぼしてでも、世界の全てを敵に回してでも、戦うと決めたのだ。
リリと一緒にいられない世界なんて、滅んでしまえばいい。
だけど、それも限界なのか。立ちはだかる世界を超えることなどできないのか。
魔神と呼ばれたゾルヴァでも……世界を滅ぼすことなど、不可能なのか。
そしてゾルヴァは苦痛と疲労の限界を越えたのか、もしくは絶望に押し潰されたのか――ついに膝をつき、倒れる。
頬に触れる地面が冷たくて心地よい。このまま目を閉じたら、リリと一緒にいられる世界に行けるだろうかと、
そんな途方もないことを考え瞼を下ろそうとしたその時――
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