スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

インディゴ地平線 (作者:優)

インディゴ地平線 【12】

先程まで外に出ていく人たちの声や足音で騒々しかった部屋には、
もうあたしとルディしか残っていない。
静かになった空間であたしはルディを、ルディはあたしを見つめる。
きっと一瞬のことだったのだが、あたしにはとても長い時間に感じた。
じっとまっすぐあたしを捕らえる青い瞳。
それが先ほどの言葉は嘘じゃないぞとキツく訴えてくるように感じた。

「逃げるって…どういうことなの…?」
「シャロ。君は、この町が好き?」

掠れそうな声しか出ないあたしにルディはいつか聞いたことのある質問
をする。
ルディにあたしの過去について話したあと投げかけられたものだ。
あの時同様あたしは困惑する。

さっきから、ルディは何を言っているの?
あたしに、何を言って欲しいの…?

「…ルディも知ってるでしょ、サナの人はみんな優しいわ。
早く戦争が終わってもとのサナに戻って欲しいと思ってる。だから、」
「俺はこの戦争の勝敗なんて興味ない。
この町が負けても…どうでもいいんだ。シャロ、もう一度聞く。
君は、本当にこの町が好き?」

ドクン、と心臓が跳ねた。
何か言おうとするが口がうまく動かない。目頭が熱い。体が冷たい。

―――あたしはサナが好きです
―――あなたと出会えたこのサナが好きです
―――あなたと笑い合えたこのサナが好きです

―――あたしは…



ポタポタと、涙が零れていくのを止められない。
床にできる染みを見ながら、答えを見つけてしまった自分を恨んだ。
あたしは何て嫌な人間なんだろう。なんて醜いんだろう。

「ルディ…」

言葉が震える。
頭にそっと何かが触れた。ルディの掌だ。
顔を上げると、涙でぼやけてよく見えないが確かに彼は微笑んでいる。
あたしの心を見透かしているのだろう、大丈夫、何も悪くないと
言葉をかけてくれた。

外から風の吹き荒れる音が聞こえてくる。

「一緒に、この町から逃げよう」

今にも屋根や壁を破壊してきそうなその音はまるで

「俺はシャロさえいたらそれでいい」

…町を救うはずだったルディという希望が
町を見捨てるクズになったことへの怒りの声に聞こえた。



―――あたしは、ルディがいるこの町が好きだったのです



「あたしも、連れていって」



―――あたしを育ててくれた町より、この青い瞳が好きなのです

優 著