スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

インディゴ地平線 (作者:優)

インディゴ地平線 【10】

あっという間に食事は終わり、乾いた空気を吸い込みながらルディが立ち上
がる。

「じゃあ行ってくるよ」
「うん…」
「今夜は敵の本拠地を叩く。…今までで一番激しい戦いになる」

先程西の国の話をしてくれたときとは全く異なる厳しい表情で、良くも悪く
も今夜で全て終わるはずだと言った背中に小さく「気を付けてね」と声をか
ける。
どうかどうか死なないで。あたしの前から居なくならないで。

「絶対、戻ってきてね」

すでに歩き始めていた足を止めルディが振り返り「当たり前だろ。シャロを
置いてくわけない」と言う。その顔は笑顔だったがとても寂しげなものであ
たしの目からは涙が溢れ出した。

「おいおい、一生の別れじゃないんだからさ」
「…っ。ごめ…」

困ったように笑う顔が、私の涙を拭う手が、私の名を呼ぶ声が、もしかした
ら今夜居なくなってしまうかもしれない。
もう二度と触れることができなくなるかもしれない。
あたしは独りぼっちになってしまうかもしれない。

考えたくもない想像が膨らんで涙腺を刺激する。ルディはそんなあたしを抱
き締め背中を優しく擦りながら「大丈夫、大丈夫」と繰り返した。

「絶対戻ってくる。何があってもここに…シャロのもとに。俺は強いんだっ
て知らなかった?一人でタラの小部隊やっつけたこともあるんだぞ」
「……、…知ってる…」
「だよな。その後、シャロに全身が血臭いから来るなって言われて俺泣きそ
うになったもんな」

あの時ほどこの戦争を恨んだことは無いねと肩を揺らすルディ。
いつもと変わらない彼に少し気分が落ち着いた。



―――大丈夫。



根拠もなくそう思わせる彼の言葉はきっと魔法の言葉だ。

「…ありがと。涙止まったからもういいよ」
「そっか。良かった」

離れる彼の体温を名残惜しく思いながらぐしゃぐしゃになった顔で笑顔をつ
くる。

「いってらっしゃい、ルディ!」

普段笑うことが少ないあたしの笑顔に驚いたのか、ルディはポカンと口を開
ける。
しかしすぐにいつもの笑顔で「また今夜」と手を振った。
おそらく彼なりの「すぐに帰ってくる」というメッセージなのだろうが、そ
れでも今夜というのは…

「早すぎでしょ」

自分で言ったんじゃない。今夜が一番激しい戦いになるって。
帰ってきたら一番に茶化してやろうと笑いながら小さくなった彼の姿を見送
った。



このときは、彼の言葉が本当になるなんて考えもしなかったのだ。

優 著