スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

インディゴ地平線 (作者:優)

インディゴ地平線 【8】

「ルディ、シャロ!」

避難所に着くとすでに町中の人が集まっていて、ある男の人があたし達を見
るなり駆け寄って言葉を掛けてくれた。

「良かった、中々来ないからどうしたのかと思ったんだ」
「すみません。こことは正反対の所に居たので…」
「謝るな。無事だったならそれでいい」
「あの、さっきの音は…」

さぁ中にお入り、とこの町には珍しい鉄製の建物に招かれながら尋ねると、
声を掛けてくれた男の人が何か耐えるような表情をして「タラだ」と小さく
言った。
やっぱり、と目を伏せる。そんなあたしの表情に気付いたのか、男の人は優
しくあたしの頭を撫でてくれた。しかしルディと同じくらい大きな掌はあた
しを安心させてはくれなかった。

「シャロ!」

避難所の中に入るとあたしは突然女の人に抱き締められた。

「あぁ、シャロ!無事だったのね、良かった…!」
「おばさん…」

あたしを抱き締めたのは、記憶喪失のあたしを引き取ってくれた独り身の女
性だ。
この人はあたしを本当の娘のように可愛がってくれ、あたしと仲の良いルデ
ィのことも気に入ってくれていた。

「本当に無事で良かった…。シャロに何かあったらと気が気でなくて…」
「心配かけてごめんなさい。あたしはルディと一緒に居たから大丈夫」

ギュッと苦しいくらいにあたしを抱き締める温かいその腕に感謝を覚えなが
らもあたしの笑顔はぎこちなくなる。
それを悟られないように必死で笑顔を作りながら苦しいわ、と抗議するとお
ばさんはようやくあたしを離してくれた。
ほっと安堵の息が漏れると同時にルディが口を開いた。

「おばさん、今の状況はどうなっているんですか?」
「今のところ怪我人は出ていないわ。町のすぐ外で爆発が起こっただけみた
い」
「爆発だけ?」
「…おそらく、タラからの宣戦布告でしょうね」
「…宣戦布告…」

聞き慣れない、しかしどこか重く冷たい言葉に息が詰まる。

いやだ、そんなの。せんそうなんてしたくない。

逃げたしたい気持ちで一杯になり身体が少し震えた。

「シャロ」

俯くあたしの真上から振ってきたルディの声。その悲しげな声に顔を上げる
とルディは滅多に見せない真面目な顔で「大丈夫、俺がシャロのこと絶対守
ってやる」と言ってくれた。
その言葉に呼応するかのように、町中の人々が口々に叫び始めた。

「皆がもっと落ち着いたら男は町外れの武器庫を開けよう!」
「女は家に戻り食料や必要なものをかき集めるんだ!」
「怖がらないよう、小さな子供にもじっくり言い聞かせろ」
「もう後戻りはできない!これはオアシスを、命を懸けた戦いだ!」

タラに俺達のオアシスをとられるな!とどんどん大きくなる声にあたしはた
だ泣きたくなる。
おばさんが再びあたしを抱き締め「大丈夫、きっと前の生活に戻れるから。
少しだけ我慢しましょう」と囁く。
あたしはこの人と出会った時と同じように、火薬の臭いに気分が悪くなるの
を感じながら、小さく「はい」と頷いた。

優 著