スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

インディゴ地平線 (作者:優)

インディゴ地平線 【7】

「それからあたしはあの家で育てられるようになったの。砂漠にいる前のこ
とは今もまだ思い出せてない」
「…」
「これがあたしの過去話」

聞いてくれてありがとう、と言うとじっと黙って話を聞いてくれていたルデ
ィがポリポリと頭を掻いた。

「…そっか…。だからシャロだけ瞳が青いのか」
「うん、そう」
「…辛かった?」
「少しだけ、ね。でもこの町の人はみんな優しくて、ずっと大切に育てても
らったから…」

それに、この町にいたから貴方に会うことができた。あたしにはこれだけで
十分意味のあるものだわ。

言えない言葉を胸の奥にしまってルディを見る。すると彼は意外にも深刻そ
うな表情でこちらを見ていた。
滅多に見ないその表情に少し身体が強張る。

「な、に…どうしたの?」
「…シャロ。君は…本当にこの町が好き?」
「え…、」

ドクン、と自分の心臓が大きく跳ねたのが分かった。
あたしがこの町を好きかどうか?
何でそんなこと聞くの?この町の人はこんなにも優しいのに。

ねぇ、ルディ。
その言葉にあたしは何と返せばいいの?
貴方のその瞳は、あたしの何を見透かしているの―――?

「あ、たし、は…」

ドオオン

「!」

あたしがうまく言葉を発せないでいると遠くから何かが爆発するような轟音
が鳴り、同時に地面がわずかに揺れた。
地震、じゃない。音のした方で砂煙が上がっている。

「まさか…」
「…タラの奴等、攻めてきたな…」

ルディの言ったタラ、という単語に身体が反応する。
タラとはここより東にあるサナと同じような小さく貧しい町だ。タラとサラ
は長い間、この付近に存在するオアシスを分け合って助け合いながら生活し
てきた。
しかし、最近になってタラ付近のオアシスがどんどん枯れはじめ、徐々にそ
の均衡が崩れ始めていたのだ。
勿論サナだってタラにこちらの水を分けてはいたが、こちらの生活も苦しい
ので必要十分な支援が出来ていたとは言えなかった。
タラの人々は度々サナにより多くの支援を求めていたが、それに応えられる
ことはできなかった。
助け合っていたふたつの町の仲はどんどん悪くなり、終いには「サナの奴等
がタラの水を全て奪ったんだ」という覚えの無い恨みを買うようにまでなっ
てしまっていた。

きっとさっきの爆音は、タラの人々がサナの水を奪いに来た音。

「でも、こんなに急に…」

数日前からそのような噂は聞いていたものの、やはり実際に起きるとどうし
ていいか分からなくなる。
その場に立ち竦むあたしにルディは哀しげな表情をして「行こう」とあたし
の手を取った。

「今はとにかく状況を確認しよう。みんな避難場所に行ってる筈だ」
「…うん」

キュッと唇を噛み締めルディの手を握り返す。
大きな掌はあたしを安心させてくれ、思わず泣きそうになった。

優 著