スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

インディゴ地平線 (作者:優)

インディゴ地平線 【6】

次に目を開けたときに目に入ったのは、あの青い空…ではなく、灰色の天
井。

何回か瞬きをし、目を動かし周囲を見る。
最初に見た灰色の天井と、それと同じ色の壁に囲まれた部屋。どうやらあた
しはその部屋の中心にいるらしい。
空や砂、そして太陽は見あたらず、代わりのようにあたしの傍にある丸いテ
ーブルの上に水の入った小さな小瓶。
…感触からしてあたしが横になっているのはベッドだろう。
一通り周囲にあるものの確認をしてから、あたしはまた目を閉じた。

きっとあたしはあの後死んだのだ。太陽が照りつける中、砂漠で一人寂し
く。
死は覚悟してたし、痛くもなかったのでそれは気にしない。これから逝くの
が天国でも地獄でもどっちでもいい。

ただ…



「!」

思考を止め閉じた目を再び開く。どこからか、人の声がしたのだ。
あたしは耳を澄ませて周囲の音を拾うことに集中する。

「…」

やっぱり、微かに聞こえる。
しかしそれはこの部屋の外から聞こえてくるものらしく、ほとんど聞こえな
い。あたしはなるべく音を立てないように身体を起こし、そっとベッドから
降りた。
見ると、先程まで死角になっていた壁に出入り口がある。声はそこから漏れ
ているようだ。ゆっくりその出入り口に近付くと、声が鮮明に聞こえてく
る。

「…で、どうするんだ?」
「どうするも何も…。また砂漠に放り出すのか?」
「まだ15、6の子供だぞ?親も見当たらなかった」
「きっと砂漠ではぐれたのだろう。そんな子を一人にさせるのは…」
「なら、」

部屋から顔を出すと、大人が数人話になって何か話し合っている。その外見
と話の内容からして、ここは天国でも地獄でも無さそうだ。

(まだ、あたし生きてるんだ)

そのことに少しだけ安心し、ホッと息をつくと、話になっている大人の一人
と目があった。

「おい、目を覚ましたぞ!」

その一声が合図だったかのように、その場の人間全員がこちらを向き、一斉
にあたしに駆け寄ってきた。

「大丈夫?居たいところは無い?」
「…は、い」

一番前の女性に尋ねられるが、別段どこも痛くないので、とりあえず頷く。
良かった、とその人が微笑むと、その後ろにいる男性が口を開いた。

「お嬢ちゃん、あんた、どこから来たんだ?名前は?親は?」
「え…、」

パッと思い出せずに口籠もる。
頭を回転させ、記憶をたどろうとするが、いくら考えてもその答えが出てこ
ない。それどころか砂漠にいた前のことすら思い出せない。

「思い…出せません…」

ここで嘘をついても仕方ないと思い、正直に記憶が無いことを言うと、その
場の人は皆驚いた表情で顔を見合わせた。
そして哀れんだような目であたしを見る。

「砂漠にいたことは覚えてるのか?」
「…はい。でも、その前は…分かりません」
「記憶喪失、か」
「…すみません」

俯きながら謝ると初めに質問してきた女性が「可哀想に」と言ってあたしを
抱きしめた。
砂と、かすかに火薬の匂いがする。

「きっと砂漠で辛いことがあったのね」
「…」
「何も思い出さなくていいわ、うちへいらっしゃい。一緒に暮らしましょ
う」
「…はい」

かすかながらも鼻につく火薬の臭いに嫌気を覚えながらも、あたしはその女
性の腕の中で小さく頷いた。

優 著