スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

インディゴ地平線 (作者:優)

インディゴ地平線 【4】

その日からあたしはルディと一緒に過ごすことが多くなった。
朝起きてルディと一緒に一日分の水を汲みに行き、あたしの家であたしの育
ての親が作ってくれたご飯を食べ、外で二人で話し込んだり、買い物に行っ
てみたり。
たまに町の外にあるいくつかのオアシスに行き、砂漠の向こうにはどんな国
があるのか、どんな動物、植物や文化があるのかを延々と教えてもらった。
けれど、いくら訊いてもルディの故郷についてはほとんど話してくれなかっ
た。

(嫌な思い出でもあるのかな…)

それならもう訊かないでおこうか。
しかし、一度彼が故郷のことを「とても綺麗な所だよ」と教えてくれたと
き、彼の表情は驚くほど優しいものだった。
特別嫌なことがあったわけでは無さそうだけど…

「シャロ?」
「!はい、ルディ、何!?」
「ボーッとしてた。まだ眠い?」

水を汲みながらルディが尋ねてくる。
考え事をしていて忘れていたけど、そうだ、今は朝で、いつものように二人
で水を汲んでいる最中。
ついでに言うとルディの話の途中だった。

「ごめん。何だった?」
「いやあのさ、俺この間町の人に言われたんだ。シャロを笑わせるなんてた
いしたもんだ!って」
「あぁ」

確かにあたしもよく言われる。
ルディと一緒に居るときのあたしは、彼が来る前では想像もつかないほど表
情豊かだと。
自覚もしているし、それは良いことだと思うので、あたしはこの変化に嫌気
を覚えてはいない。
変化の原因、ルディはどう思っているのか分からないが。

「それで、俺実はすごいんだなぁと思って。これで商売できると思う?」
「商売って、何の?」
「お悩み相談室みたいな。貴方の心の闇を溶かします!って感じで」
「…」

何ソレ。
なんだかインチキカウンセラーにしかなれない気がするんだけど。

「何だよその冷ややかな目!俺繊細なんだから、もっと優しく接してよ」
「繊細な人が人の相談になんて乗れるの?」
「う…」

まぁ、ルディは繊細な人じゃないと思うけど。
むしろ人に何を言われてもあまり気にしない、さらに人のプライバシーにも
ズカズカ入ってくるような図太い神経の持ち主だと、あたしは思う。

何て言うか、怖いもの無しな性格?
けれど、人の知られたくない領域には絶対足を踏み入れない優しさも彼は持
っていて、あたしはそれにも惹かれているのかもしれない。

初めて他人に抱いた、特別な感情。
それに気付く度にあたしは顔が暑くなる。

「…」
「ん?どうした、顔赤いけど…風邪?」
「違う。…何でもない」
「…ふーん?」

ほら、今も。
あたしが線を引いたらそこからは入ってこない。
もし、あたしが本当に風邪を引いてて、その所為で顔が赤いのだったら、ル
ディはしつこく訊いてきてあたしの意見なんか無視するだろうけど。
彼はあたしの顔が赤くなった理由に、何となく気付いているのだろう。

でも、あたしが言わない限り彼はそのことを詮索してはこない。
ルディは、そういう人。だから…好き。

「…ねぇ、ルディ」
「ん?」

けれど、少しはあたしのことも知って欲しいから。
だから、聞いてね?

「気付いてると思うんだけど、あたしね…」
「?」
「この町の人間じゃないの」
「…」

水を汲み終えたルディが立ったまま動きを止める。
ルディが敢えて触れてこなかった話題を、あたし自身が持ち出したことに驚
いているのだろう、少し目を見開いてあたしを見る彼にそっと微笑む。

「聞いてくれる?」
「…勿論」

真面目なルディの顔。
それに一瞬だけ見とれて、あたしは深く息を吸った。

「5年くらい前にね…」

優 著