スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

インディゴ地平線 (作者:優)

インディゴ地平線 【2】

彼が町に来てから一週間が過ぎたある日。
あたしが町の外れで水を汲んでいると、ふいに背後から声を掛けられた。
振り向くと、そこにはいつも遠くで人に囲まれている青い瞳の彼が立ってい
て、彼は「こんにちは」と言いながらニコリと笑ってあたしに近付いてき
た。

(何で、こんなところにこの人が?)

急なことに頭が回らず黙っていると、彼はそれを不思議に思ったのか首を傾
げ、やがて思い出したように口を開いた。

「あ、そっか。自己紹介まだだったね。
えー、俺はルディ、19歳。西の国から来ました。以後よろしく」

町であれだけ話題になったし、あたしもちょくちょく見に行ってたから、そ
れくらい知っているんだけど。
そう思いながらも、冷静になったあたしは一応知らないフリをした。

「…そうなんですか、初めまして。あたしは、シャロです」
「やっぱり!この町に俺と同じような、青い瞳をした女の子がいるって聞い
たんだよ。君なんだよね?」
「はい…」

そう、それはまさにあたしのことで、実はあたしも、この地域では見ない瞳
の色をしているのだ。
この地域では黒い瞳が一般的だが、あたしの目はそれとは異なる、薄い青
色。
彼は楽しげにあたしの目を覗き込んできた。

「へー、本当に青いねー」
「…」
「あれ、怒った?」
「いえ、別に」

いつも遠くから見ていたあの青い瞳が今目の前にある。
その思っていたより深くてきれいな青色に見とれていたのだ。

「…あの、」
「ん〜?」
「えっと、」

あ、どうしよう、話し掛けたのはいいけど次の言葉が出ない。
普段からあまり人と話さないから、何を言って良いのかわからない。
どうしよう、変な人だと思われるかも。

「その、」
「うん」
「えっと…。あ…どうしてこの町に来たんですか?」
「…え」

あたしが必死に探した質問に、彼が驚く。

「何か…変な質問でしたか?」
「んー、いやそうじゃなくて…」

違うんだよ、と言いながら彼はゆらゆらと身体を動かし、視線を宙に泳がせ
た。
すぐに、質問に対する『嘘』を考えているのだとわかった。
…何か都合の悪いことを聞いてしまったんだろうか。

「あの、別に無理に言わなくても…」
「あぁ!そうだ!」

何か良い嘘を思いついたらしい彼に、勢いよく言葉を遮られる。
ポカンとするあたしに、彼はニイッと笑い、頭上を指差しながらこう言っ
た。

「この空の、端を見に行こうと思って」

優 著