スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

テレビ (作者:ひかる)

テレビ 【8】

デニーは一呼吸おいて、続けた

「だからね、私にはファーラーをまっとうに育てる義務があるんだ
これが、ファーラーのお母さんから頼まれたことじゃなかったとしてもね
…ごめんよ、急に話してしまって。

「ううん、いいの。そういう大人の事情って、私、慣れてる。

「ミカは、この世界が好きかい?
「…、私、もうこの世界から出たくない!
「こんな、本の世界でもかい?
「うん!だってね、私、ここで生きてるの!生きている実感が湧いた!
前のところでは、私に希望なんてなかったのよ。本当よ、私を追い出さないで!

デニーは、ミカの涙を手の甲でぬぐって、抱きしめてあげた
ミカに足りないものは、発する優しさではない
受け止める優しさの大きさだ。
この子は心が大きい。でも、それを埋めることを知らないのだ。

ごめんよ、ミカ…。


ミカの『ママ』には、デニーの心のうちがなぜだかわかった。
なぜ、この人は何度もミカに謝るの?
これから何が起ころうとしているのだろうか…?





「ミカ、聞いてくれ。
「なあに?
「ファーラーのお腹に赤ちゃんがいる、それはわかるよね?
「もちろん!元気な子だったら、男の子でも女の子でもいい!私、兄弟が欲しかっ
たの。




『すごく幸せそう
ミカが、この世界を望むのなら、私はもう…
だって、私は母失格なんだから…失ってわかる大切なものって、これだったの
ね…』




「ファーラーのお腹にいる赤ちゃんの命を助けるか、
ミカがこの世界に残るか、もとの世界に戻るか。それを私が決めなければならな
い。

唐突過ぎて、ミカには言っている意味さえもわからなかった。
デニーは進めた

「ファーラーも体が弱い、赤ちゃんが無事生まれる保証はなかった。
そして、ミカが現れた。私はね、取引したんだ。
私は、ファーラーを殺したこの城の主を殺してしまった。それを後悔していたん
だ、
その罪を取り消しにする代わりに、お前にこの世界で一番辛い仕事を与えると
ね…。
それは、他人の命を助けるか切り落とすかを決めなければならない。
それが、ファーラーの赤ちゃん、いや、ファーラー諸共。それか、ミカの命だっ
た。
でも、ミカを殺すのは酷だ。元の世界に戻すということで、手を打ったんだ。

「私を殺す気だったの…?

「そんなことはしないさ。

「ファーラーと赤ちゃんの命は?

「まだ決めてない。

「ファーラーが言ってたよ。赤ちゃんの名前はもう決めてあるって。
私みたいに、目の不自由のない人を願うって。

「それは私も聞いたよ。

「そうだよね…私よりもずっとファーラーのそばにいたんだもんね


「私、ファーラーの夢を叶えさせてあげたい。

「そう言うと思った。
…私がミカと出会ったとき、何かを感じた。
でも、ずっと一緒にいたら同情して、私は仕事を成し遂げられなくなる。
本当はね、歓迎会のときに私がしていた マントの怪人 、あれが私の本来の姿な
のだ。



『同情じゃなくて、それは愛情。』

『照れ隠しなのね…だって、あなたの目に光るものがあるもの』

ひかる 著