スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

テレビ (作者:ひかる)

テレビ 【7】

どうして美加が、ここに…いや、テレビの中にいるの?



「デニー、今日は晴れてる。どこかへ出かけない?
「おお、そうだね、出かけよう。
「ファーラーはどうする?
「お腹の赤ちゃんが大きくなってきた、そろそろ歩くのも辛いだろう。
「じゃあ、私、言ってくるね!
「ああ。

美加は、屋敷へ駆けて行った


『美加が、あんなにはしゃいでいるところを見たことがないわ、笑ってる…』
どうして、私は、気づかなかったんだろう。まだ美加は子どもだったのに。


「すまない、ミカ…

『?』

デニーは、遠くを見つめるようなまなざしで、そっと空気に呟いていた…



「ファーラー、ファーラー!
応答はなかった
不思議に思った美加は、ファーラーの寝室まで行くことにした
扉の向こうで、うめき声が聞こえる
「どうしたの?ファーラー!
そこには、お腹を抱えて苦しそうにしているファーラーがいた。
そう、破水していた
もうすぐファーラーのお腹から、新しい生命が誕生するのだ
でも、今の美加にはそんなことまで頭が回らない
「デニー、デニー呼んでくる!
「待って、ミカ。
「?
「今まで、ありがとう。私、わかってた。デニーがどちらを…ウウッ!
「しゃべらないで!デニーを呼んでくるから!

デニーが来て、応急処置を施すことはできた
あとは、お医者様に頼むことにした



「ファーラーは大丈夫かな…
「大丈夫、ファーラーの心は強いよ。
あの子はね、小さい頃にお母さんと二人で暮らしていたんだ、町の離れでひっそり
とね
そこを、この城の主に気に入られて、ファーラーは結婚した。
でも、そいつは乱暴者でね、甘い言葉ばかり降りかけて、ファーラーを引きとめな
がらも
そこらじゅうに他の女はいたんだ、ファーラーはその一人に過ぎなかった。
そして、ファーラーのお母さんは介護がなくなり、そのまま死んだ。
母の介護もするという約束だったのにだ…。
だから私は、その男を…

ハッとした、私はミカに何をしゃべっているのだろう
相手は、まだ子どもなのに。


美加には感づいていた
デニーの話し方が、徐々に怒りと哀しみを含んでいたことを。
きっとデニーは…そのファーラーのお母さんが好きだったんだ
淡い丸い気持ちは、それで、一瞬にして消えたんだ

私のママもそう。
私なんかに気づきやしないんだわ、私、大人になってもママには頼らないし、お世
話もしない。
私、知らないところで生きていきたい!

これが、5才の少女が思うことなのだろうか。

ひかる 著