スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

僕のギター (作者:朱音)

僕のギター 【2】

音楽が特別だと自覚したのは、物心ついてからすぐのことだった。
俺は音楽を作り続けたいと思って、自分で曲を書いてギターをかき鳴らした。
歌を歌うのが好きだった、ギターを弾くのも好きだった。
俺が中心となって、バンドを結成した。
ステージの上と客席の高さが変わんねえくらいのちっさい会場だったけど、ライブもやったよ。
初めてステージの上に立ってマイクを握ったときのことは、たぶん一生忘れない。

でも俺は臆病だったから、そのまま音楽に突っ走ることは出来なかった。
周りのメンバーもそれとなくそういう空気をかもし出していた。
感じ取ることができたのは、俺にも同じ感情があったからだろう。
皆こう思っていたんだろう。
“このままずっと音楽を続けることは、できねえんだろうな”


現実を見ようとしたときに諦めたことは、プロを目指すということ。
必然的なことだったから、足元に絡みつくコードにたまたま足を取られたとか。
そういうんじゃねえと、判ってはいるんだ。
俺が夢を描いたバンドは散った。
解散は、俺が言い出したことだった。
それだけでいいって掴もうとした夢は荒波に身を任せ、
足掻くこともなく自然にガラス玉のように弾けた。
そのまま風に吹き飛ばされてどこかへ行ってしまえばよかったのに、
未だ甘い毒を含んだ後悔が心に巣食っているのは、
俺の中から諦めが消え去ってくれはしないからなんだろう。

朱音 著