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あじさい通り [作者:ぽわん]

■10

特に行くあてもないのに、僕は陽菜を背負って走り続け、いつしか校舎を抜けた。

このまま学校にいちゃいけない・・・そんな気がしたのだ。


帰り道いつも通る花屋にさしかかった時、僕は急に体が重たくなった。
・・・そういえば少し疲れた。陽菜は僕より身長が10pほど高いっけ。
失礼かもしれないが、僕よりは体重もあるだろう。

陽菜をおぶったまま、そっと聞いてみる。

「・・・・・・陽菜?」

だけど返事がない。 

「陽菜・・・・・・?」

もう一度呼んでみる。

ケホケホッ!!

陽菜は苦しそうに咳をした。同時に肩が濡れた。

雨は・・・・・・降ってない。

「陽菜!?」

僕はとっさに陽菜をおろした。

陽菜の口からは血が流れていた。僕の肩には真っ赤な血がついていた。

「陽菜!!!!!」

「ケホケホ、ケホケホッ!!!」

咳は全く止まる様子もなく、口から流れる血は、アスファルトを赤く染めた。


僕にはどうすることもできない。頭の中が真っ白になる。
応急処置の仕方さえ、一つも浮かばない。

「お前もうすぐ死ぬんだってなぁ!!!!!」

あぁ、だめだ、そんなの思い出すな!!!

「ケホケホッ!!」

「陽菜、まってすぐ・・・!!苦しい!?どうしよう・・・・えっと・・・・」


救急車・・・・・・・・・・!!携帯は・・・・もってない。公衆電話は・・・・ない。

「どうしたらっ・・・・・・・・・・!!」

頭がまわらない。何も考えられない。

「おは・・・な・・・やさ・・・・ん」

小さなよわよわしい声で、陽菜が言葉を発した。

「陽菜!?・・・・・・あっ!!」

僕はとっさに目の前の花屋に飛び込んだ。

・・・・・ピーポーピーポー

やがて救急車に乗り込む頃、陽菜は気を失っていた。
通報してくれた花屋の若いお姉さんは、どうやら陽菜の知り合いらしく
売り物の花の何本かを数秒で寄せ集め、何も言わずに僕に渡してきた。
僕はそれをかかえて、救急車に飛び乗った。

救急車の中で、救急隊員さん達に、どんな色の血だったか、どれくらいの時間
吐いたのか、その前の様子は・・・などとたくさんのことを聞かれたけど、僕は
ほとんど放心状態だった。

「では待合室で、お待ちください。」

手術室と書かれたドアの前で、僕はひとり茫然と立っていた。



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