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悪魔のような君へ [作者:ユウコ]

■第2話

笑った君は天使のようだった。

幼稚園のとき、好きな女の子がいた。
その娘は三つ編みのおさげが特徴で明るくて笑顔が可愛かった。
僕は彼女のことを密かに「天使」と呼んでいた。我ながら恥ずかしいことをしていたものだ。
彼女は人気者で逆に地味でいじめられっこだった僕のことなんかこれぽっちも覚えてないだろう。
彼女は今、どうしているのだろう?
あれだけ可愛かったのだから、きっと彼女にお似合いのボーイフレンドでもいるだろう・・・・・・。
気がつくと僕はベッドの上に仰向けになっていた。
ゆっくりと起き上がって周りを見渡す。
まず赤い絨毯に目が留まった。金色の刺繍で縫われた花の模様。そうゆうのを贅沢と言うんだろうな。
正面にはドアがある。黒いドアの取っ手の上部にはシルバーで作られたユリのモチーフが飾られていた。
この部屋にはベッドと丸くて身長のあるテーブルと椅子が置かれていた。まるでアンティークの店にいるような気分だ。
しかし、どこを見渡しても窓がない。
窓のない部屋はなんだか奇妙だ。

「目が覚めたようね」

ドアが開き、レース一つない真っ黒なワンピーツを身にまとった少女が姿を現した。

「あ・・・・・・うん」

少女は一言で言えば可愛かった。が、表情が足りなさそうな印象も受けた。

「まず、あなたが置かれている状況を説明するわ」

少女は僕の前に立ち腕組みをした。いかにも見下しているような態度が鼻につく。

「あなたは死んでるの」

やっぱりな。マンションの30階から飛び降りて助かるわけがない。しかし、冷静に自分の死を受け入れている僕も僕だが・・・・・・。

「でもね、自殺したバカ野郎とかが多すぎて地獄はパンク状態」

すごい言い方してくれるじゃないか・・・・・・。

「そこで空きがあるまで待ってるのよ」

少女はそういい終えると俺をじっと睨む。何か質問でもないの?と問いかけているようだった。

「じゃあ、ここは待合室みたいなところ?」

「そうよ。私は待合室を監視する悪魔デュノ」

あ・・・・・・悪魔?!

冷たい態度からして悪魔っぽいのは分かるが、こんな可憐な少女が悪魔だなんて僕の常識では考えられなかった。
悪魔というのは突き刺さりそうな角が生えていて、皮膚の色は黒でもなく灰色でもない濁った色で、
見るもの全てが怯えてしまうような怖い顔をした生き物だと思っていたからだ。

「あら、私が悪魔に見えないと言いたいの?」

デュノは千里眼なのか?僕が思ったことをそのまま口に出す。

「勝手に何でも思っておきなさいよ。あなたは1008番と呼ぶわね」

デュノは一瞬だけだったが笑みを浮かべた。僕はそれを見逃さなかった。

あれ・・・・・・?
この笑顔、どこかで見たことがある・・・・・・?

「何、ボケっとしてんのよ。明日から私の下で働いてもらうわよ」

デュノは無表情で僕を見おろしてから部屋を後にした。
僕はまだぽかんとしていた。思い出せそうで思い出せない。デュノの笑顔は天使みたいだった。
そう、ずっと昔。
僕が好きだった笑顔だ・・・・・・。




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