スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

マリンブルーの先 (作者:ひかる)

マリンブルーの先 【6】

なんだったんだろう。
僕は木陰に隠れながら聞いていた話について、ベッドの中で考えていた。
ルチカもよくわかっていないようだった。

しかし、ただ一つ、確信していることはあった。
それは、ルチカに渡された鍵が何かをせき止める扉を開くものであるということ。



その夜…。
「おお、ルチカ。今日は見かけなかったが、どこを出歩いていたんだい?」
大きな親分、この森の主はわかりきったことをわざわざルチカに質問した。
「ええ…町を探索していたのよ。こんなお祭りにはしゃぐ民衆を眺めるのも、たまにはいいかと思って。」
ルチカは口から出まかせを言ってしまった。バレることはないと思った。

「へぇ〜そうかい。そういえば、あの鍵。急きょ必要になったんだ。今すぐ返してくれるかい?」
「え?」
「ほら、早く出しなさい。」
「え〜っと…。」
勘の鋭い親分は気づいた。鍵をあの男に渡してしまっていることに。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ………
突然外が暗くなった。
「どうしたのかしら?」ふと、親分の方を振り返ると、見たことのない真っ赤な鬼がそこにいた。
「ちっ。感情が高ぶってしまった。」

ルチカも知っていた。夜明けを迎えてしまった者は、鬼に喰われるという噂を。
「本当だったんだわ。」
それならあの鍵は、きっとこの森と、闇と関係がある。パムが危ない、パムに知らせなきゃ。
そう思い立ち上がった。
すると、親分は邪魔をされないためにルチカを片手で軽く掴み、木に括り付けた。
そして、叫びながら走り出した。
親分は森の秘密に気づいているかもしれないパムを消そうとしていた。




町にはサイレンが鳴り始めている。
「赤鬼が出没したとの情報。みなさん、直ちに室内へ避難しましょう。」

来る。あの森の主が僕をめがけてここへ来るだろう。
そして鍵を求めるのだろう。
この鍵に何が隠されているのか?恐らく…恐らく、闇へ向かう切符代わりになるんだ。
「君」に会えるときが来たのだろうか。でも僕は今、闇に行きたいか。
本当に行きたいか?

外に出て少し考え込んでいると、ざくっという足音がした。とたんに視界に赤い足が入った。
ヤツはもうここまで来ていた。

「よぉ。今日はどうも。ルチカがお世話になったようで。」不気味な笑みを浮かべている。
「鍵は渡さないよ。」
「あ?」
「お前の思い通りにはさせない。お前が闇だとか、
こんな貧相な生活をこの世界の住人に与えるから、すっかり頭の中から死がすっ飛んでいたじゃないか。
僕たちは人間だったんだ。人間らしさをお前に奪う権利はない。」
「おいおい、何を言っているんだよ。この世界に来て、綺麗事抜かしてんじゃねえよ。
ここに来た時点で人間じゃないんだ。俺様に常識を求めるなよ。」

腐ってる。こんなヤツの元、「君」は本当に闇に消えてしまったんだね…。
二人は互いに怒りがこみあげてきていた。


「ああ、そうだ。君は勘違いをしているようだから教えてあげる。
その鍵は闇がどうとかではなく、生命の循環の流れをせき止めるための扉を開く鍵なんだよ。
闇なんか問題じゃない。一生生まれ変われないようにしてやるのさ。」

パムはその言葉を聞くと同時に、ルチカの元へ走り出した。
途中鬼が追いかけてきたが、隠し持っていた毒矢を数本打ち込み何とか差を広げた。

ひかる 著