スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

マリンブルーの先 (作者:ひかる)

マリンブルーの先 【7】〜完結

森の前まで来ると、見せしめのようにルチカが木に縛られていた。
「ルチカ!」
「パム!あのね、あの鍵、闇と関係がありそうなの。しかもこの森の奥に本当の秘密が隠されているみたい。」
「あの鍵は、生命の循環の流れをせき止めるための扉を開く鍵らしいんだ。
扉が開いたら、僕らはもう二度と生まれ変われないんだよ!」
話しながら縄をほどいてあげた。

「行こう。」
二人は手を取り合って、森の奥へ走り出した。真実を知るために。
鬼はそこまで迫ってきていた。

どれくらい進んできただろう。光が見え、森を抜けた。




するとそこには、マリンブルーのような夜明けの先に、美しい海原が広がっていた。
鳥が翔け、海底からはキラキラ光り輝くものが浮遊している。


「待て〜!」鬼は叫び、そこまで来ていたが二人は鍵を海へ投げ捨てた。
鬼は消滅した。


死を志願してきた者は、この場所でもう一度考える時間を与えられる。
「闇に消えるか、生まれ変わるか。」

「闇」を希望した者は、鳥となって海原を翔けていく。
「転生」を希望した者は、深い海底から七色のダストを拡散させて天を目指す。
どちらも、生命の循環に乗ることができる。
僕にも、ちゃんと未来はあった。どんな選択をしても。


「パム、強くなった。さっき、私の手を引っ張って走り出したとき、初めて会った頃を思い出していたの。

私が死を願望してきたのかって聞いたでしょ?あなた、とっさに違うって答えたじゃない。
この世界にいたら、死という概念が取り除かれるのにあなたは違うって言った。
そのとき、ああ、この人、まだ心のどこかで生きたいと強く思っているんだと感じたの。」

「なにそれ」二人は笑いあった。


「どっちに向かう?」ルチカが尋ねる。
「海の底に決まってるでしょ。」ちょっぴり強めにパムが答える。
「彼女の元へ行かなくていいの?」
「絶対また会える。彼女にも、ルチカにも。」
「言うと思った。」


ザパン…


「二人で、物語を紡いでいこうね。」

彼女とルチカを重ね合わせた二人の声で聞こえた。きっと、そうだったんだ。
最後の言葉は、生まれ変わるまで僕の胸の中で波のように穏やかな脈にもまれていた。



こわがる必要はない。僕らは、純真な命でもう一度生まれることができる。


【完】



-----あとがき------

「Y」を題材に書きました。
「舞い降りる夜明けまで」という歌詞が大好きなので、夜明けをポイントに置きました。
夜明けの前に何かがあるのか、後に何かがあるのか。
今回は、夜明けの後に素晴らしい営みがあるということを最後全面に出しました。

ひかる 著