スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

プールとあの子 (作者:hiyori)

プールとあの子 【4】

なつみは帰りのバスの中で、こんなことを言った。
「新しい学校で友達作って、皆でプールに行きたいんだ!」
「プールか、良いね。でも8月の中旬頃って寒くないかな」
「きっと大丈夫だよ。そのときはカナメも一緒だからね!ぜーったいだよ」

さっき若菜たちに会ったこと、若菜たちから聞いたことは言わなかった。
こっそりと胸にしまい込んで、僕が影で支えてあげよう。
なつみに何かあれば相談に乗ろう。

僕となつみは休みが終わるまで、色んなことをした。
サイクリングロードに出たり、街へ出かけたりもした。
なつみのお陰で前から立てていた予定はガッタガタに崩れてしまったけど。
でも、何度もグッと胸が痛んだけどあの二文字は言えなかった。
この関係のままでいたいから。

やっぱり、僕らで恋人同士になるのとはちょっと違う気がしたんだ。

そして、いつの間にか8月の半ばを過ぎ今日から学校だ。
なつみは両親に車で送ってきてもらうらしい。僕は唯一の大親友・聡と登校した。
「おい、お前知ってるか?転入生が来るらしいぜ」
「・・・んん、知らない。そんなの誰から聞いた?」
僕は咄嗟に嘘をついた。もう情報が伝わってるのか。
「アイツだよ、三芳。今日来る転入生の元いた高校に知り合いがいて・・・」
僕はハッとして、次に眩暈がして、心臓のポンプがドクドクと脈打つのが分かった。
このままじゃ、なつみの過去が皆に知れ渡ってしまうのではないか。

僕は約束したんだ、なつみを守るって。
なつみは何も悪くないはずだ。純粋でキラキラと光るなつみの笑顔がちらつく。

教室は相変わらず女子の高い声がうるさかった。この浮かれた声が僕は嫌いだった。
始業式が終わり、担任が言う。
「私たちのクラス1-Bとして今日から新しく学校生活を送ることになる転入生が1人います」

案の定、さっきの声とは一変し、ザワザワと虫がうごめく様な雑音。
なつみは、いつもの笑顔を見せてくれるだろうか。

僕の学校の制服を着たなつみが重い足取りで黒板の前に棒立ちした。
「ハイ、自己紹介をお願いします。」
「あ、の・・・第一南高校から来ました、篠塚、なつみで・・・す。よ、宜しくお願いします」

少し間を置いてから、少しずつ歓迎の拍手が沸きあがって、それからすぐに止んだ。

hiyori 著