スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

プールとあの子 (作者:hiyori)

プールとあの子 【3】

なつみがあまりにその場から動こうとしない。僕は図書館の中を見て回った。
町内の小学生の絵も飾られている。ここのすぐ近くに小学校があるのだ。
今日は、親と一緒に来ている子供達が沢山いる。
他にも、キッズルームやビデオ室など施設が整っていた。

「ねえ」
僕は一瞬ビクン!と背筋が伸び、ゆっくり振り返った。
2人の女子が僕の顔を、突き刺すような目付きで見ている。
「えーと、君たち誰?」嫌な汗が滲むのを感じながら言った。
「あんた、あの幽霊の彼氏?まさかね」
僕は混乱した。
「え、ええ?何?なつみ?」
「そうよ、なつみ。何で一緒にいるワケ」
どうやら、引っ越す前の高校のクラスメイトみたいだ。
その子達の話を聞いて、僕の頭の中は更に真っ白になった。

なつみはついこの間までいじめられていたらしい。
いじめられていると言っても、完全に見捨てられている訳ではなく、
その2人の女子(黒髪ショートなのが若菜で茶髪ロングが彩。)が話し相手だったらしい。
しかし、日に日にいじめはエスカレートし、耐えられなくなりこっちに引っ越してきた。

他にもなつみのことを話してくれた。
精神的に弱い子で、空気が読めない、かなりのバカ、感受性が強い、立ち姿が幽霊っぽい・・・
何か、なつみのことを貶しているように見える。でも友人だった2人はいつもなつみのそばにいた。
結局は1人の親友として支えてあげていた、とのことだった。

そして、
「最後に言いたいんだけど」とぽつんとこぼし、
「新しい高校ではあんたがサポートしてあげてくんない?あの子、マジで弱いし。」
「何か心配なんだよね、いじめって後々トラウマになるとか言うからさ。ね?」

2人の女子、若菜と彩とはこれからなつみについて連絡を取り合うことにした。

心に押し寄せる不安を受け止め、なつみの元へ戻った。
しばらくすると太陽が傾きかけ、図書館の窓いっぱいに切ない色が塗られ始めている。
「カナメ、今日は付き合ってくれてありがと。楽しかった」と言ってなつみは微笑んだ。

バスを待つ横顔がいつもより愛しく思えた。
恋の根が深くなり、茎は天に向かって大きく伸びていくようだ。
夢にまで見た花が咲くまで、もう戻れはしなかった。

hiyori 著