スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

プールとあの子 (作者:hiyori)

プールとあの子 【5】

叫びたい言葉が増えていく。
口の中に、今すぐなつみのもとへ飛んでいきたい言葉。
僕は息苦しいのと安心したのとで身体がフワフワしている。

隣で、こんな会話が聞こえた。
「転入生無口タイプだね」「あー分かる、何か暗いオーラが・・・」

え?と疑問符が打たれた。僕から見れば普段のなつみなのに。
僕といるときは無理して明るく振舞っていたのだろうか。

2時限目が終わった後、なつみに話しかけた。
「隣の子と話せたか?」
「うっ、ん。うん。話せたよ」
どこか引きつった顔。
「何かあったら言ってよ。」
「大丈夫だよ」

なつみの口癖が「大丈夫」になったのはこの頃からだった。
僕はあまり気にしないフリをして、なつみと会話を増やしていった。

数日経ち、なつみが嬉しそうな声で言う。
「実はね、上村さんが私の歓迎会をやってくれるって」
あの上村が?またもや疑問符が浮かんだ。
上村は女子の中でも性格がキツく、先輩にも目を付けられてる噂だってあるのに。
「そうなんだ、で、歓迎会って?」
「私、この間プールに行きたいって言ってたでしょう。だから・・・」

なつみはどうしてそんなにプールに行きたがるのか。
何か、強い思い入れがあるのだろうか。次から次へと疑問符が浮かび上がる。

僕は直接上村に聞いてみた。
「お前、転入生の歓迎会やるって、珍しいな。普段はそんなこと滅多にないのにな」
上村は何故か悪戯っぽい口調で、
「まぁね。あたしの楽しみも1つ増えたし、今週の土曜日、カナメも来てよ」

僕は素直に喜んでいた。気分が良かった。
予定表に「なつみの歓迎会・市民プールに行く」とだけ書き記した。

hiyori 著