スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

ひなたの窓はどこに (作者:仲野フレン)

ひなたの窓はどこに 【5】

女を連行した連中のアジトは、昔高層ビルの上層部だったと思われる建物だった。一面割れた窓ガラスで、建物のはじに無理やり破り開けたと思われる入口があった。

女はスノーバイクから引きずりおろされると、一番体格の大きな男にかつがれた。

「うわぁ!」

「よいしょっと。お、かりぃかりぃ。おめ、ちゃんど飯食ってんのが?しがしまぁおめ、変な恰好しでんなぁ。そんなん格好ずぁこんな雪ん中ぁ歩げねぇ」

大男は訛りのある言葉で女に話しかけた。

「余計なことは話すな」

リーダー格と思われる男が大男に注意する。

「すまねぇ。かわええ娘だっだがらついな」

「第3会議室に運べ。私は第5アジトへ行く。すぐ帰ってくるからそれまでそいつを見張ってろ。・・・お前たちは元の配置に戻れ」

リーダーは大男を無視して、一緒に引き連れていたたくさんの子分たちに命令した。

「ああ、わがったわがった」

大男の返事も聞かずに、リーダーはスノーバイクに乗って去って行った。女は大男にかつがれたまま建物の中に入った。子分たちがそれに続いた。



建物の中も暗闇と静寂と凍える空気でつつまれていた。大男や子分たち一味は懐中電灯をつけた。子分達はそれぞれの持ち場である部屋に入っていく。大男はまっすぐ廊下を進むと、階段を降り、地下―かつては地上だったが―へと進んだ。地下に着くと、さらに長い廊下をのっしのっしと進んでいく。

「ちょっと」

女が言う。

「俺をどうする気だ」

「へ?!おめ、男か?!」

「・・・女。自分のことなんて呼ぼうと俺の勝手だ」

「へぇ、中身も変わったやつだべ。まぁええ。おめをどうすんのがはおらにもわがんね。・・・着いたべ」

ドアの前で大男は立ち止った。ドアには『第3会議室』と書かれている。昔このビルは会社だったのだろう。今では会社員も消えたが。

「おろすべ。いすに座れ」

女はいすの上におろされた。部屋は真っ暗で何も見えない。

部屋には何台ものストーブがあった。大男はその全てのストーブに火をつけた。ストーブの火で少しは部屋の様子がわかったが、それでも暗くてよく見えない。

「うぅ、さみぃな。おめはそんな厚着してるがらわからんが」

「電気は・・・エアコンはないのか」

「デンキぃ?!エアコン?!なんだそれうめぇのが?!おめの星の食いもんが?!」

「えっ・・・」

「おめのこと、宇宙人だってみんな言ってるべ。でも宇宙人には見えないべ」

「だろうな。俺は60年前にこの惑星から宇宙に捨てられたからな」

「へぇ?!捨てられた?捨てられたって、おめ、なんか悪ぃことでもしたんか?!こんなかわええ子をわざわざ捨てるなんて・・・」

「そうだな・・・」

女はうつむいた。そしてぼそぼそと言う。

「・・・れてきたことが」

「ん?」

女は顔をあげると、大男に向かってきっぱりと言った。

「俺が生まれてきたこと、それ事態が悪いことだ」

仲野フレン 著