ひなたの窓はどこに (作者:仲野フレン)
ひなたの窓はどこに 【4】
それからというもの彼女は毎日パソコンでプログラムを打ち続けた。
誤差の修正作業のかたわら、カプセルの外、つまり宇宙空間の状況を計測しデータを残しておくプログラムや、そのデータを音声で読み上げ、状況を知らせるプログラムや、またただの時間つぶしのためのゲームプログラムをいくつもつくりあげた。しかし彼女は作ったゲームを5分ほど遊んだらすぐにやめてしまい、また新しいゲームプログラムを作り始めるのくりかえしだった。
星々から降り注ぐ放射熱を使ってカプセルのバッテリを充電するため、毎日パソコンを使ってもまだ電力があり余る環境だった。そのため、彼女は我を忘れて―というよりは孤独感を忘れるために―プログラミングに打ち込んでいた。
そんな生活を3年続けたある日、女性の声のような機械音声がこう伝えた。
『24時間以内ニ、惑星ニ到達シマス。着陸準備ヲ開始シマス』
「えっ・・・」
女は窓の外を見た。
確かに3年前に見たっきりの自分の惑星だった。
しかし彼女は喜べなかった。
自分の国があるはずの場所は灰色の雲のような大きな塊ですっぽりと覆われ、確認できなかった。
「なにがあったんだ?!あんなに大きな雲は普通じゃありえない・・・もしかして!」
彼女はパソコンを叩き始めた。
「火山が噴火した・・・しかも普通の山じゃあそこまでならない・・・きっと」
エンターキーを押すと、機械音声がしゃべり始めた。
『火山灰ガ上空を覆ッテイル模様。地上ハ確認デキマセン。推測デハ』
「やっぱりそうか・・・」
『地上ノ時間デ約3年前ニ、“マウント・フジ”ガ噴火シタ模様、デス』
***
女を乗せたカプセルは自動操縦によって、予定通り地上に着陸した。降り積もった灰色の雪は着陸の音さえ飲み込み、静寂を保っていた。
雪は降っていなかったが、厚い雲のため昼か夜かさえもわからないほど暗闇が広がっていた。
女は降りる準備を整えると、パソコンを開いた。現在地を調べるためだった。しかし、「データが取得できません」としか表示されなかった。
「やっぱり・・・計算が正しければ60年経っているからな・・・」
女はパソコンを閉じるとリュックに押し込めた。そしてリュックを背負うと、壁の一部を押した。
カプセルの扉が開いた。と同時に凍える暴風が彼女を襲った。防護服を着ているため、寒くはなかったが、容易に進めないことははっきりわかった。
それでも彼女は雪の大地に足をおろした。粉のような雪は彼女を腰近くまで飲み込み、彼女は身動きがうまくとれない。
「くそぅ!」
それでも雪をかき分け前に進もうとした。しかし数メートル進むのがやっとだった。
「だめだ!ここでくたばるわけには!」
そう思いもがけばもがくほど動けなくなっていった。
と、地平線の向こうから、幾つもの光が女のいるほうへと近づいてきた。
「何・・・?」
その光はものすごいスピードでやってきた。
それは何十台ものスノーバイクだった。スノーバイクは彼女の周りをぐるりと囲んだ。彼女はバイクのライトのまばゆさに目がくらんだ。
「おい・・・」
「すみません、身動きがとれなくなって。助けていただけません・・・か・・・」
と女は口をつぐんだ。
ライトに目が慣れてきて今の自分の状況がわかった。スノーバイクに乗った人々は、彼女に銃を向けたのだ。
「おい・・・お前、『シカンカン』を知っているか?」
「・・・は?」
「いいから、知っているかと聞いているんだ。・・・もういい、アジトへ運ぶぞ!」
「え?!ちょ、ちょっと!!何するんだ!!」
彼女は両手に手錠をかけられた。そして雪から引っ張り出されて、無理やり一番大きなバイクに乗せられた。
「なんなんだよ!俺は着いたばっかりで何も・・・!」
「話はあとでたっぷりと聞いてやる!無駄な抵抗はやめるんだな!」
「な・・・」
彼女は何か言おうとした。しかし武器を持っている相手に歯向かうのは無謀だと悟り、彼女は黙り込んだ。
こうして彼女は集団のアジトへと運ばれた。
仲野フレン 著