スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)

スパイダーの悲劇 【27】

<プリシラ>

    そこは何もないところ。小高い丘の上。辺り一面、黄金色に輝く穂波に覆われている。ずっと遠く地平線まで。海みたいだ。風が穂を揺らし

   て、さらさらと音をたてる。空には満月がある。ずいぶん大きなお月様、と思った。手を伸ばせば届きそう。写真で見たような表面のデコボコ

   まで見える。広い空の三分の一は占めている。残り三分の二はダイヤのような星が散りばめられていた。

   「素敵なところね。ここは一体どこなの?」

    私はすっかり夢見心地で(実際に夢を見ているんだろうけど)尋ねた。

   「どこなんだろうね。」ルークはそう言って、下のほうを見下ろす。「この坂道を一気に駆け下りれば、僕は自由になれるんだ。君が一緒に来

   てくれれば。」

   「どういうこと?」

   「僕はスパイダーじゃなくなって、自由になれるってこと。」

   「どうして?」

   「どうしてって……。」


    『ルークも昔はみんなと同じだったの?』

    『そうですね、』

    『僕だけじゃないです。他のスパイダーもみんな……。』

    『みんな?』

    『……よくわかりません。』


    この会話を思い出した。やっぱりルークも他のスパイダー達も、昔からスパイダーだったってわけじゃないんだ。

    突然ルークに手首をつかまれた。そしたらもう走り出していた。

ミツル 著