スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)
スパイダーの悲劇 【17】
<プリシラ>
地下室の扉が開いたことに、私達は気づかなかった。そこにユナが現れたのだ。
「お部屋に行ってみたら、お姿が見当たらないのでお屋敷中捜し回りましたが……まさかこんなところにいるなんて!」
そう言うとユナは地下室全体を睨むように見て、最後にルークを睨んだ。その視線は、ルークにとっては蛇の目だったに違いない。
ルークはとっさに頭を下げて、小さく震え出した。私はその耳に「大丈夫よ」と囁いて立ち上がった。
「私の部屋に入る必要があったわけ?」
ユナは大袈裟に身震いして言った。
「お嬢様は最近よくお眠りになれないようでしたから、行ってみたのです。」
それでユナは引っ込んで、上に行ってしまった。多分お母様、お父様を呼んで来るのだろう。
「ルーク、私嘘ついちゃったことになりそう。」
ルークはフラフラと立ち上がって、月の光の射して来る方を見上げた。その顔が白く浮かび上がった。灰色の目がキラキラと光っていた。
「もう、大丈夫です。」
<ルーク>
やがて奥様、旦那様それとユナさんがやって来た。僕はただスパイダーらしく振る舞っていただけだった。そう、それが当たり前のことで、
お嬢様に会う前まではずっとそうだったのに……今日はなんて悲しいんだろう。
<プリシラ>
「プリシラ! 早くスパイダーから離れなさい!」
お母様がひどいことを言う。どうしてルークはスパイダーなの? スパイダーって言われている人達と私達は何が違うの?
この時心からそう思った。
「ちょっと、やめて!」
ユナが私の腕を掴んで無理矢理私をルークから引き離した。お父様が入れ違う感じでルークに近づいた。
「ルークぅっ!」
私はお母様とユナに連れて行かれるところだった。私は振り向いて叫んだ。
「お嬢様……!」
ルークもそう叫んだ気がした。
お父様の右手には鞭があるのを、私はちゃんと見ていた。
私の後ろで地下室の扉が閉まると同時に、鞭が振り下ろされる音が聞こえた。
ミツル 著