スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)
スパイダーの悲劇 【13】
<プリシラ>
ルークは膝を抱え込んで、うつむいたまま拍手をしていた。肩が小刻みに震えている。
「どうしたの?」私はイスから降りて、ルークのそばに座った。ルークは拍手をやめて、右手で目をこすった。「泣いてるの?」
私はついさっきまでの自分を恥じた。私、素晴らしい演奏をしたと思ってた。自分の妄想で、立派なステージの上で演奏していた。お客さんは
いっぱいで、割れんばかりの拍手が聞こえてくると思って、でもそうじゃなかったから、がっくりした。それで、スパイダーのルークじゃなくて、
もっと身分の高い人、それこそ白馬が似合う王子様が聞いてくれてたらなぁ、って思った。
「なんで、泣いてるの?」
ルークは答える時、決してしゃくりあげたりしなかった。静かに泣いていた。うつむいたままだった。
「…お嬢様の演奏に、感動して泣いてるんです。」
「嘘よ。」私は言い切った。「だって、顔を上げてないんだもん。」
もっとましな理由が思いつけばよかったんだけど。いや、理由はあるよ。ただ、うまく言葉にできないよ。私があんなふうに思ったから、嘘に
聞こえたのかもしれない。それに、あの演奏はスパイダーにとっては遠くにありすぎる。きっと、それを感じて泣いちゃったんだ。
「嘘なんかじゃないです。」
今度は顔を上げて言った。私はびっくりして息を飲んだ。ルークのその顔はキレイ過ぎた。普通泣いたりしたら、顔がぐしゃぐしゃになっちゃ
うのに、女神様のような泣き顔。泣いてるというより、涙を流してるという感じ。
「お嬢様の演奏で思い出したんです。お日様の光を。過ぎ去ったあの頃を――。」
どこか張りつめたその声に、私はただならぬものを感じ取った。
「ルークも昔はみんなと同じだったの?」
意味のわからない質問をしたと思った。みんなって誰? 私達身分の高い人達のこと? 自分で考えたことなのに、口にするとわけがわからな
くなった。
「そうですね、」
ルークはもう泣いていなかった。遠い目をして、月の光が差す格子の外を見た。
「僕だけじゃないです。他のスパイダーもみんな……。」
「みんな?」
「……よくわかりません。」突然、ルークは目が覚めたように私を見た。「すみません、お嬢様? なんとおっしゃいました?」
「もう、いいよ。」私はなんだか哀しくなってきた。「私もう、行くね。また次の夜にね。」
私は足早に地下室を出て、階段を駆けのぼった。
ミツル 著