スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)

スパイダーの悲劇 【6】

<プリシラ>

私が食べ物(軟らかいパンとかベーコンとかをナプキンに包んで)を抱えて地下室に戻ると、ルークは部屋の隅っこにうずくまっていた。

「ほら、」私はルークの目の前でナプキンを広げた。「おいしそうでしょ? 食べていいわよ。」

ルークの顔を覗き込んでみると、困惑した表情でごちそうを眺めていた。

「ありがとうございます。でも、結構です。」

私の顔も見ずに言った。すぐに片っ端から口に詰め込むと思ったのにな。ルークは男の子だし。

「せっかく持って来たんだから食べてよ。」


<ルーク>

お嬢様が怒ったように言うので本当にどうしたらいいか迷った。目の前の食べ物を食べたいという気持ちはなかった。ただお嬢様の親切を無にしてはいけない気持ちはあったけど、スパイダーとしてそんなことをしてはいけないっていう気持ちの方が強かった。

「お嬢様、私達スパイダーは上の身分の方から食事をもらってはいけないのです。」

「そうでしょうね。だから持って来てあげたんじゃない。」

「つまりそれは、お嬢様達がスパイダーに食事を与えてはいけないということです。」

はぁ、またお嬢様に意見してしまった。




<プリシラ>

「……それもスパイダー法なの?」

「はい、その通りです、お嬢様。」

何なのかなルークって。まさに『スパイダーの鑑』みたいな。スパイダー法気にしすぎ。

「大丈夫よ、誰も見てないし。私もあなたも誰にも言わなきゃ済むんだから。」


<ルーク>

そういう問題じゃないんだけどな。何言っても無駄みたいだ。僕がこれを食べない限りには。

仕方がないので僕はパンを一つ手に取った。やっぱりなんだか気持ち悪い。

「やっと食べてくれるのね!」

思わずお嬢様の方を見た。お嬢様はニコニコと笑って僕を見下ろしていた。それでなんというか、お腹がすいた。いや違うな。お嬢様の笑

顔をもっと見てみたいと思った。だから結局お嬢様が持って来てくれた食べ物を全部食べてしまった。その間ずっとお嬢様は笑ってくれていた。



<プリシラ>

ルークはさんざん遠慮しておいて結局全部食べちゃった。私が持って来れる量なんてたいしたものじゃなかったけど。とにかくよかった。

「あの、本当にありがとうございます。すみませんでした。」

ルークは立ち上がるとまたまた深くお辞儀して言った。

「いいのよ。どういたしまして。」




<ルーク>

お嬢様は声を出して素敵に笑った。目が細くなって頬に赤みが差す。僕はまたしてもしっかりお嬢様を見てしまった。心臓がまたバクバクして、言葉にならないのに口が動いて……。

「あ、そろそろ朝かな? みんなが起きる前に私戻らなきゃ。」

そう言うとお嬢様はピアノの上の今にも燃えつきそうなローソクを手に取った。

「じゃあまた明日、違う今夜? 来るからね。」

お嬢様は部屋を出る時そう言った。また? 来てくださるの?

僕はしばらくの間、部屋の戸口を見つめて立ちすくんでいた。
         

ミツル 著