スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)

スパイダーの悲劇 【5】

<ルーク>

どれくらい時間がたったろう? お嬢様が手を下ろした。僕はそのまま固まってしまっていた。

「ねぇ、」お嬢様が言った。「あなた、名前はなんていうの? あ、知ってると思うけど私はプリシラよ。」

「……ルーク……と申します、お嬢様。」

誰かに名前を聞かれるなんて初めてだった。口にしたこともない名前を、どうして今まで僕は忘れずにこれたんだろう?

「あ〜、また『お嬢様』って言った〜。しかも顔下げてるし。」

お嬢様が大声を上げた。そんなのスパイダーには無理な話だ。

「申し訳ありません、お嬢様。……あ!」

思わず顔を上げてお嬢様を見てしまった。お嬢様は最初怖い顔をしていたけど、すぐフフフと小さく笑った。


<プリシラ>

よく考えてみると、スパイダー達は上の身分の人とはそうやって話さなくちゃいけないって教え込まれてるんだろうな。それを決めたのは私達貴族や王族だわ。

「ごめんね、でも普通に話した方が楽じゃない?」

返って来た答えは意外なものだった。スパイダーはとても青ざめた顔をすると身震いして、頭を深く深く下げて答えた。その姿は何かに怯えているようにしか見えなかった。

「そんなことはございません、お嬢様。」

「そうなの。私はこういうふうにしゃべった方が楽だな。」ここで私はスパイダーからちょっと離れた。あんまり近すぎると、彼落ち着きそうもなかったから。「ルークだっけ? 顔は上げた方がいいよ。人と話す時はその人の目を見るものよ。」




<ルーク>

それは身分が同じだった場合だ。お嬢様はスパイダーのことを何もわかっていない。

「スパイダーは決して上の身分の方を直接見てはいけないのです。目を合わせるなんてもってのほかです。」

本当はこんなこと、人に意見するようなことをお嬢様に言ってはいけないのだが、口が勝手に開いた。胸のあたりがなんだか苦しかった。

「どうして?」

「それが決まりだからです。全てスパイダー法に記されています。」



<プリシラ>

「……スパイダー法……。」

その名を聞いたことないわけじゃないけど、くわしい内容までは知らない。私はルークの方を見て考えた。私より2インチほど背が低くてずっとやせている。きっとろくなもの食べてないんだろうな。

「お腹すいてない? 台所から何か持ってきてあげる。」

私は小公女のお話を思い出しながら言った。あの本を読んで、ああいうかわいそうな人がいたら絶対助けてあげなくちゃって思うようになったんだ。私は部屋の出口にかけよった。

「お気づかいなさらないでください。」

そうよ、最初は遠慮するのよ。でも、持って来ちゃえば我慢せずにはいられないわよ。


<ルーク>

お嬢様は何も言わずに行ってしまった。本当に何もわかっていないんだ。それは当然のことだ。空腹と言えば空腹なような気もするけど、はっきり言えば僕は睡眠と同様食事も取った記憶がない。何を食べたって余計に気持ちが悪くなるだけなような気がする。

ミツル 著