スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)

スパイダーの悲劇 【3】

<プリシラ>

奥の方から拍手の音が聞こえて、見ると壁を背にして男の子がうつむいて立っていた。見かけない子だな。ボサボサの青みがかった黒髪。

蒼白の肌。ボロボロの灰色の服はつんつるてん。靴も靴下も履いていない足は寒そうだった。

「あ、うちのスパイダーの子か。」

「さようにございます、お嬢様。」

スパイダーはさらに頭を深く下げて言った。

私は部屋全体を見回して、それからスパイダーを見た。

「ねぇ、あなたなんでこんなところにいるの? こんな時間に。」


<ルーク>

それはこっちのセリフだ、と思った。でも僕は頭を下げたまま、こう答えた。

「ここが私の部屋だからでございます、お嬢様。」

スパイダーは余計なことを考える必要はない。質問されたら正直に答える。ただそれだけ。


<プリシラ>

一瞬びっくりした。スパイダーに自分の部屋があるなんて。でも、この地下室はスパイダーのためにあるようなものじゃない。電気もないし、ほこりだらけだし。あれ、でもさ……

「このピアノは?」

「それは、私がこの部屋をもらった時からありました。」

「お父様やお母様はこのピアノのこと知ってるの?」

私は期待を込めて尋ねた。多分二人とも知らない。知ってたらこんなものとっておくはずないもの。


<ルーク>

僕はどう答えていいか、正直迷った。おそらく、お二人ともご存じないだろう。でも、これは僕の思うところであって、ここはわからないと答えるのが一番いいだろう。

「わかりません、お嬢様。」

<プリシラ>

「そう。じゃあ、あなたこのピアノのこと誰にもしゃべったことないんだよね?」

胸がどきどきする。なんだかすごく素敵な感じ。

<ルーク>

僕の心臓が一瞬跳ね上がり、バクバク言い出した。秘密にしてはいけないことだったのか。

「はい、ありません、お嬢様。」

僕は床の一点をただただジッと見つめて答えた。爪先に力が入る。でも、そんなにおびえる必要はなかった。

「本当? 誰にも言ってないのね、やった!」

なぜかお嬢様は心底喜んでいるようだ。僕は驚いたし、同時にホッとした。別に悪いことをしたわけではないみたいだ。

気がつくと、お嬢様がすぐそばまで来ていた。お嬢様のネグリジェの裾が視界に入って来て、わかった。僕は身を硬くした。


<プリシラ>

スパイダーは何かにおびえているように見えた。上の身分の人とこんなに近くで話したことないからかな? 

「ピアノのことは私達二人だけの秘密よ。」

私は夢心地で小さく言った。「私達二人だけの秘密」ってところが物語みたいで面白いと思った。

スパイダーは体を一瞬ピクっとさせたけど、すぐこう答えてくれた。

「はい、わかりました、お嬢様。」

ミツル 著