スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)

スパイダーの悲劇 【4】

<ルーク>

僕は声の震えを押さえつけながら言った。胸の辺りがモヤモヤして、不安な気持ちになった。

まず、嬉しかった。二人だけの秘密――。友達ができた気分だった。でも、お嬢様と仲良くなっていいものだろうか? こうして二人きりでいること自体、許されない気がする。

いや、違う。お嬢様は秘密にしていろと言っただけ、つまり誰にも言うなということだ。命令なんだ。それなのに、この気持ちは何なんだ?

ダメだ、ルーク、お嬢様は上の身分のお方だ。言葉づかいのせいなんだ。「このピアノのことをお前は誰にも話してはいけません。」こんなふうに言われていたら違ってたんだ。




<プリシラ>

スパイダーが約束を破ったりはしないだろう。でも、ピアノの音が上に聞こえてたらどうしよう。
        
「『お嬢様』はいらないわよ。」

私だって普段は「教養ある女性の話し方」でしゃべるのよ。お母様や侍女達がうるさいのよ。こういう時くらい普通にしゃべりたかったの。

だから相手のスパイダーにも普通にしてもらいたかったのよ。




<ルーク>

僕は心底驚いて、お嬢様を見た。目が合ってしまいあわてて下を向く。また心臓がバクバク言い出した。

「どうしたの?」

心配そうな声でお嬢様が言った。心臓はますますバクバクして破裂しそうだった。

頭の先から爪先まで震えが走った。お嬢様の手が僕の頬に触れて――。

「顔を上げてよ。なんでずっと下を向いてたの?」

その声は少し怒っているように聞こえた。

全身がこわばっている。白いつややかな手が頬の上を滑り、僕の……スパイダーの顔を上げさせた。

目を合わせたくなくて僕は視線を背けていたけど、心のどこかにお嬢様を見つめたいという思いがあって、ほんのちょっとそちらを見ただけで、カッチリと歯車がはまるようにお嬢様と目が合ってしまった。

その瞳は近くで見ると大きく丸く、ただ青いだけじゃなくて夜空のようで星が瞬いているような気がした。さらにその奥に満月、雷雲と続き、飲み込まれてしまいそうだった。



     
<プリシラ>

スパイダーは初め目を合わせないようにしていたけど、一度目が合うと放そうとしなかった。私の心の中まで見ようとするみたいにじっと見つめてきた。細めたその目の隙間から見える瞳は嵐のような感じ、灰色の上に黒がまだらに散らばって渦巻いているような不思議な色をしていた。その内に深すぎる悲しみ、そして計り知れない恐怖を秘めているように見えた。

ミツル 著