スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

夢の世界へ行けたから (作者:笑顔)

夢の世界へ行けたから 【12】

『びっくりしてるの?現二』

怖くて、足が震えた。

『何なんだよ…』

『現二だよ。』

僕に、もう一人の僕が近寄ってきた。
こうしてみると、僕より、ほんのわずかに目がきつい。

『もう、戻れなかったらどうする?』

『え?』

『現二だって、いつも言うじゃん、もう無理だとか。』

『それがどうしたの?』

『だから、もしも、もう元の世界へ戻れなかったらどうする??』

僕はそのことを想像した…すると、色々と残酷な事が頭に浮かんだ。
もう姉ちゃんに会えない?ここで死んでゆくの?暗闇の中ひとりで。
もしかしたら、今まで僕がいた世界こそが嘘だったりとか。

『嫌だ!!!』

僕は頭を抱えて座り込んだ。

『嫌だよね。僕も嫌だよ。姉ちゃんに会えないの。』

僕の心が闇に落ちて行くような気がした。

『この世界って…』

『え?夢の世界だよ。現実みたいでしょ。』

『みたいじゃないよ』

『うん?エヘっもともと、僕達の魂なんて存在しなかったりしてね』

こんなの僕じゃない。そんなのは分かってる。でも、
性格を抜かしたら、すべて僕と同じ、いや、性格も同じだ。

『怖い?お家に帰りたい?お母さんの顔を見たい?姉ちゃんに会いたい?』

『…。』

『僕だってそうだよ、だって僕は君で、君は僕だよ?』

そんな事を言われていて気がついた。
これは、勇気の力…そうか…勇気は僕の心を壊そうとしているのかな。
もしそうだとしたら、もう一人の僕の言う事なんて気にしなくて良い。
そうだ、絶対に負けない!!負けたくない。

『別にいい!!帰りたいけど、僕にはまだやらなきゃいけないことがある!!』

その言葉を発した瞬間…。僕の体に、光がさした。
光りは、僕の体を包んでいって、嫌な事をすべて消してくれて
何か暖かいものが、体の中に入ってきた。

『ふっ…やっとだね。』

もう一人の僕が、そっと呟いた。
僕は、飛んでいた、白い2本の、でかい翼を背に
光り輝く金色の真っ直ぐな剣の様な杖を持っていた。

『ここからが本番なんだよ?現二』

もう一人の僕が言った。

『うん。やっと理解できたよ。現二』

僕の言葉を聞くと、もう一人の僕が、杖を振って
僕の頭の上に来た。

『すきだらけだよ』

『どうかな?』

『やっぱり僕は僕だ、力なんて同じだよ』

『いや、僕と君は違う!!心が違うんだ!!』

『戯言を…』

もう一人の僕がそういったとき…僕の杖が放った光りの中に
もう一人の僕が消えていった。

『ばいばい、現二』

その言葉と同時に、僕の体も、元にもどり、勇気のいる場所へと行った。

『へっ帰ってきたのか』

『僕は、お前が思ってるほど弱くない。』

『そうか、ならば…その力というものを見せてもらおうか。』

『うん』

『言ったな…じゃぁ、24時間以内に、秋人という奴を探せ。
もちろん、生きていればの話だがな』

僕は、その言葉を背に、天使の姿へとまた変わり、
空を舞って、秋人君を探しに行った。

笑顔 著