スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

愛のことば3 (作者:さなぎ)

愛のことば3 【3】

一瞬のことで何が起こったのかよく分かっていない僕に彼女は叫んできた。

「何でそんなこと言うの?自分は死んでもいい存在だ、なんてどうして言うの?そんな死んでもいい存在だなんて私はこれっぽっちも思ってない。
・・・知っている人は皆連れて行かれた・・・。親も、友達も、親戚も。
女の人だって、戦争の手伝いみたいなことをさせられて、もうほとんど人間不信なのよ?残ってるのはあなただけ。・・・ねぇどうして気付いてくれないの?
必要なの、私には。
あなたが必要なの。独りにしないで・・・!」

・・・知らなかった。彼女が、そんな風に僕を思っていてくれたなんて。
混乱している僕に、さらに彼女は言った。

「それに、さっき言ってた言葉は、あなたの本音じゃない。そうでしょう・・・?そうよね?
医者を志すような人が、人を殺して、自分もいつかは死んでいくような場所へは行きたいなんて思ってないでしょう?本音を言ってよ!」

・・・本音・・・。


「・・・行きたくない。まだ、生きていたい。」
消え入るような声で、僕はつぶやいた。
こんなに、こんなに僕のことについて真剣になってくれてる人がいる。
その気持ちを、無駄にはしたくなかった。そして、そんな彼女を独りにしたくは無かった。

「・・・じゃあ、行かないで。死なないで。
お願い、自ら命を捨てるようなこと、しないで・・・。
死んでいった人たちのためにも、生きようよ。生きていこう。」

「・・・でも、国に従わなければひどいことが・・・」

「出よう、この国。平和な、西国に行こう。まだ、召集まで2日くらいはあるでしょう?」
紙を見てみたら、まだ日にちは2日ある。

けれど、国を出るなんてそうそうできることじゃない。一歩間違えば、というよりばれてしまったらかなりの確率で、殺されてしまうか、拷問を受けるだろう。
でも、それしか自分の生きていく道が無いのだとしたら・・・。
こんなにも一生懸命になってくれている彼女に応える方法がそれしかないのだとしたら・・・。

少しでも希望があるほうを選ぶのが僕にできることなのではないだろうか?

「行こう。」

僕を見つめる彼女の目には、鮮やかな空が写っていた。

時間は無い。だらだらしているより、一刻でも早く出て行ったほうがいいのは分かりきっている。
僕は、彼女の腕を掴んで無意識のうちに走り出していた。
心配している場合ではない。行かなくては。とにかく、走れるだけ走らなくては。
でないと、彼女も僕も・・・。

さなぎ 著