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eternal1 by ナナ


初心者マーク【4】


 目を擦る。桜が散り始めているのは気のせいだろうか。
 ドアのノック音。
「アオイか……」
 たまには、起こされる朝も悪くない。苦笑して、ベッドから降り、仕事の準備をする。
 部屋を出ると、夢と変わらない彼女がそこにいた。
「おはよう」
 透けるような声で彼女は言う。ユウトも、それに返す。
「おはよう」
 今日という日を、彼女の挨拶から始めることができた。それだけで幸せだった。たとえ霧の中の現実だとしても。

 リビングで朝食を食べる。アオイの料理はやはりおいしかった。彼女の朝食は久しぶりだった。何日前だろう。
 おいしい、という言葉が喉まで出かかったが、恥ずかしくて言えなかった。
「ユウトって、顔に出るんだねー」
「え?」
 唐突なことで、びっくりした。今までそんなこと、言われたことがなかった。
「おいしいって、顔に書いてあるよ」
 アオイは無邪気に笑う。そこで僕はきっと、恥ずかしいと思ったのだろう。
「あ、耳赤くなってるー」
 鏡がないから見ることも出来なかった。
 時計を見れば七時半。あわてて朝食をかきこんで、部屋を半ば急ぎながら出た。

 会社に着いて、席に座る。この会社は、何をやっているんだろう。二人だけの部屋が、妙に広く感じた。
 急に意識が覚醒して、昨日のことを思い出す。仕事の途中で眠ってしまったことと…
「いつかは自立しないと…」
 つい、口から出てしまった。ミノリは聞いていたらしく、こちらに目線をよこす。
「どういうこと?」
 口を歪めてミノリは訊いてきた。
「いつまでも、ミノリ先輩やアオイに頼ってちゃいけないんだって…考えていたんです。昨日」
「ふうん」
 いつも通りの味気ない返事。ユウトはかまわず話を続ける。
「いつかはきちんと自立して、頼ってるばっかりじゃなくて…頼られたいんです」
 頼られたい、なんて言っておいてから気付いた。たぶん、僕は他人に干渉されたいのだと。
「頼られたい、というか、他人に干渉されたいのかもしれません」
「なるほどね…」
 いつも通りだと思ってたら、違ったらしい。今回は手元で書類を書いていない。
 何があったのか訊こうとしたが、止めておいた。
「じゃあ、私はユウト君に頼っていいの?」
「急に頼られても困りますけど……でも、僕で力になれるなら…」
 ミノリは何故か笑みを浮かべて頷いた。
「そう…」
 そのまま、壁に据え付けてある棚から書類を取り出し、何かを書き始めた。

 家に帰ったユウトは、スーツ姿のままベッドに倒れ込んだ。
 今日は何故か、そのまま眠れる気がした。
 何も変わったことはしていないのに、疲れがたまっていた。目を閉じて思い浮かべようとするが、特に何も思い浮かばなかった。
 スーツを脱いで、ベッドに倒れ込む。
「もう、何もしたくないや……」
 そして、そのまま眠ってしまおう、そう思った。

ナナ 著