スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
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eternal1 by ナナ


初心者マーク 【3】


 ユウトはゆっくり体を起こした。頭を振って、見たものを否定した。そう、夢のことだ。
「何なんだ、あの夢は……」
 夢にしては妙に出来すぎている気がするし、夢にしては妙にリアルだった。あれは本当にあったことなのか、という疑問が頭の中をぐるぐる回っている。
 もし本当にあったことなら、妙にリアルなのも分かる。
 ユウトはベッドから抜け出て立ち上がった。朝の日差しが目に刺さり、思わず顔をしかめる。
 ユウトはそのまま牢獄から抜け出した。

 隣の部屋でアオイは眠っていた。ドアをノックしても出てこない。
「アオイー、起きてるかー?」
 返事はない。鍵は掛かっていた。きっと昨日の病院で疲れてしまったのだろう。
 ゆっくり寝かしてやることにして、ユウトはキッチンに行った。

 朝食の準備をして、昨日と同じように一人で朝食を食べる。そして、またしてもへたり込んでしまいそうな感覚に襲われる。ここも無限ループ。
 僕は自分の嫌いなところを垣間見た気がした。一人では何も出来ないところだ。そういうところが、ユウトは嫌いだった。
 でも、よく考えてみると、今までその事から逃げていた気がした。
「そうだよな」
 何かに依存している現実に別れを告げなければならないのは当然だった。アオイとの生活だって、ミノリとの関係だって、依存という現状から変えていかなければならない。僕が一方的に頼ってはいけないのだ。
 テレビでは桜の開花がどうのこうのと話をしている。どうでも良かった。
 テレビの電源を切って、玄関に向かう。
 玄関で深呼吸をすると、アオイの残り香が鼻腔をくすぐった。そのしがらみを断ち切るように、ユウトは部屋を出た。

 会社に着いた僕は自分の鞄を置いて、デスクに顔を埋めていた。頭の整理がつかないでいる。
「ユウト君、どうかしたの?」
 ミノリが当然声を掛けてきた。僕はその声を無視して、さらに顔を埋める。こうしてミノリの声に反応しなければ、自立できると思った。
「ユウト君、何かあった?」
 ミノリの声は優しく、甘い声だった。でも、その声に僕は反応しない。
「………ダメか……」
 はっきり聞き取れたのはここだけ。あとは靄にかき消されて聞き取れない。しかし、誰かと会話をしているような、していないような。
 ガチャガチャ。
 何かを探しているらしい。

 どうして、ここに来てしまったんだろう。
 ミノリとの関係を断ち切りたいなら、来なければ良かったのに。
 これは、何かの暗示でもかけられているのだろうか。

 そんなことを考えているうちに、僕の意識は途切れた。

 どこかフワフワした感覚。視界に広がるのは、やはり寄せては返す漣。周りに人はいなかった。
「おーい」
 僕は不安になって、砂浜を駆ける。痛みは感じない。むしろ、地に足をつけているというしっかりした感覚が僕の足をくすぐる。
 砂浜を駆けて、人を探す。けれど、誰一人として人は見つからなかった。
「ごめんなさい」
 どこからか、誰かの声がする。でも、僕は気付いた。ずっと待ち焦がれていた声。
「アオイ!どこにいるんだ!」
 叫ぶ。絶叫に近い声で。けれど、彼女はやっぱり現れなかった。
「何なんだ…」
 この夢は、と言おうとした瞬間、
「ユウト?」
 透けるような声が後ろからした。振り返ると、彼女はそこにいた。
「アオイ……」
 彼女は優しい微笑で僕を見つめる。
「ユウト、無理しないでね…」
 このタイミングで、この言葉。わけが分からなかった。

 視界がブラックアウトする。

 自分勝手な僕は、まだ目を背けていた。

ナナ 著