スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

桜並木のルルルララ (作者:野谷蔦けい)

桜並木のルルルララ 【5】

真紀が言う『よっしー』とは、中学で同級だった『吉井里香』のことで、
ぼくはおぼろげに
吉井の姿を思い出す。

 真紀とは仲が良かったようだが、クラスが二年の時に同じだったこと以外
に、ぼくとはあまり接点が
ないように思えた。いつもうつ向き気味にぼくに話しかけてきた、小柄でおと
なしい、色白の少女の顔が
うっすらと頭の中に浮かぶ。

「あー、どうしようか……」

「いきなり、どうした?」

「うーん、まー、ねえ」

「気味が悪いな……」

「ねえ、良いこと教えてあげようか?」

「良いことならさ、遠慮なく、どんどん教えてくれればいい」

「なんかムカツクなあ……。でも、まあいいや。置き土産に教えといてあげよ
う」

「うん」

「よっしーね、修一のこと、好きだよ」

「はあ?」

「はあ、じゃないよ、ばーか」真紀はそう言って、ぼくの肩をこつりと小突い
た。

「そんな様子、まったくなかった……と思うけど。というか、あんまり吉井さん

話したことがない気がする……」

「まあ、その気があるんならさ……高校でよっしーに声でもかけてあげて」

「……うーん」

「ねえ、私、焼きそばが食べたい。あとリンゴ飴も」立ち止まった真紀が指さ
した先には、
焼きそばの文字が力強く踊っていた。焦げたソースの香りが辺りに微かに漂
う。

「買ってくれば?」

「何言ってるの? あんたが奢るのに決まってるじゃない。良い情報、教えて
あげたでしょ」

「置き土産の金を取る奴なんて聞いたことがない」

「じゃあ、送別会よ、送別会。付き合いが長いのに、あんたにはまだ何もして
もらってないし。
それに、誘った女の子には奢るべき、常識じゃん」

「はあ」

「ほら、はやく、はやく」

「はいはい」

野谷蔦けい 著